だぎゃー!

□009 500kmだぎゃー!
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ミュージックプレーヤーにイヤホンをつけ、音楽を流す。
今度のアルテミスの、イメージソングを今年から歌い始めるらしい。その記念すべき第一曲が、伊達マサムネこと私に、と依頼されたのだ。

「ねぇ、何聞いてるの?」
『今度の新曲だよ』
「どんな歌なの!?」
『えっと…曲名は……』
「せめて少しだけ歌って欲しいなぁ、僕まだマサムネの歌声聞いたことないよ」
『わ、わかった!バン、ユウヤ、そんなに近付くと歌えないよ?』

もうここからがアイドルモード。イヤホンから小型スピーカーに取り替え、ボーカルの入っていない所謂カラオケモードの新曲を流す。
…ここが公共の場、リニアの中だと、自分の中から忘れていった。

『すぅ……

熱き戦いに身を乗り出し 自分自身をも燃やすように 踊り狂え!
強き者達よ、舞台に立ち 腕を振るって やってみせろ息が詰まりそうな駆け引き!

誰かが未熟な自分にこう伝えた』

『己を信じ、知り尽くし、敵をも圧倒する気を…心に秘めよ!
言葉理屈では通らぬ、心と体で伝えよ!』

ここはテンポよく、マサムネの武将キャラでかっこよく決める。たまに歌う曲に、こんなセリフが入ることがあるんだけど…それを言うときが、よく盛り上がるんだよね。

『ときめきが止まらない 追い求めていたこの感覚
強くなってるんだ だとしたら 存分に戦え!』

…と、ここで音楽を止める。これ以上歌ったらバンたちでも著作権の侵害になっちゃう。サビは2番くらいに盛り上がるから…

『はいここまで!残りはCDかダウンロードストアで買ってね!』
「な、ずるい…と思うけど仕方ないか…
けど、絶対買うよ!」
「この続きが気になるなぁ…!」
『そう言ってくれると嬉しいがね…』

「…しかし、歌ってしまったせいか周りにペンと紙を持った人が集まっている」
『えええええええ!?変装した意味ないじゃん、あっそうか!』

歌っちゃったらマサムネだと誇示してるのと同じじゃん!こ、この雰囲気苦手なんだけど…!
なんで歌ったんだろう、ノリに乗りすぎたのかな…!

「サインくださいってこと!?すごいや、伊達マサムネは!
ヒロの言うとおり人気なんだね!」

ああもう、これどうすればいいんだがや…!!













なんとかファンにサービスを返しきり、満身創痍になる。つ、疲れた…特に手が痛い…
ペンを持つ手がクセになったのか、動かすだけでも痛い。何枚サインを描いたんだろう…腱鞘炎になっちゃいそう。

「お疲れ様、マサムネ」
「手、冷やす?ジュースあるよ」
『ありがとう…みんなには来なかったの?』
「さすがに僕たちは来ないよ…一般人に対して、国民的、いや世界的アーティストだよ?」
『ユウヤ、そんな大袈裟なものじゃないって…3人はほら、アルテミスファイナリストじゃん』
「…それほど大袈裟なものではない」

そして楽しく会話が続き、今回の曲について色々話し合った。

「へぇ、アルテミスのイメージソングなんだ!
…今年のアルテミスって、どうなるのかな…」
「招待状はすでに、届いているが…」
『私も!って、仕事の一環だからだけど…』
「LBXの暴走が、世界中でこれだけ起こっているからなぁ…」
「難しいよね……」

不安げに俯くユウヤ。私もつれて顔の向きが徐々に下がった。
話題はいつの間にか、イメージソングからアルテミスに移っていた。

「いや…今年のアルテミスは、通常通り開催する。
見てみろ、今日のトップニュースだ」

宇崎さんは操作しているタブレットの画面をこちらに向け、よく見せる。
邪魔なのでサングラスを外し、目を凝らして見つめる。

「ホントだ!
よかった、アルテミス開催されるんだ!」
『「うん!」』

4人、全員安心して喜ぶ。
中止になってたら、LBXの価値観も薄れるもんね。それに仕事がなくなっちゃう!
この仕事だけはやりたい。観客が、熱くなって笑顔になれるから!

「…でも、今年は出れないなぁ……」
「ディテクターとの戦いがあるからね…」

そうだ、うかうかしてる時じゃない。
でもどうして開催できるのかが分からない。

「おそらく、敢えて開催を決めたのだろうな」

宇崎さんは、アルテミスの主催がオメガダインであることから、開催することによってMチップの安全性を世の中に訴えることができる…と考えたに違いないと推測する。
確かに、それなら合点はいく。その通りなのかもしれない。
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