感謝感激!

□ダンボール少女と皇帝少年と水槽少年と
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彼は一言も話さず、ただ自分をじっと見つめる。



でも、なぜかそれに不快感はなく自然に彼が愛らしく見えてしまう。


彼にはなさそうな心をそのまま映したような瞳が、なんだか私の心を揺さぶる。


……いけない、あの人がいるのに何故こんな事を思ってしまうのか………



『………とりあえず外に出たいわ!………この人と』
「フッ、そうこなくてはな!」



兄さんは優しく微笑みながら出口へ近寄る。…いちいちウザったいわね……



私たちはそこへ向かい、彼の手を改めて握った。


その手には体温なんてなく、氷のように冷たかったが離すことはなかった。



(ごめんなさい、ジン………
今だけ彼に適当に構ってあげればいいのよ…今だけ)
『……さっきは酷いこと言ってごめんなさい』


ただまっすぐ正面を向いている彼の目を横から見て謝る。


「とりあえず」適当に構って、後で私の男を紹介すればこの人との関係は取り消されるんだから………


するといきなり、彼は私の手を握っている左手の握り方が変わる。
親指だけを握って……まるで子供みたいだ。


『………何か喋らないの?』
(でも……気味が悪いとかなんて思えないわね……なんでだろう)



「………言語作動プログラム、表情作動プログラム起動………
プログラム異常なし、規定のファイルをシャットダウン……
物体探知アプリ発動、ユーザー認証…使用可能……
音声検索プログラムをログオン、パスワードは「再利用」………」


突然彼が早口でぶつぶつと喋りだす。
……本当に、この人ってロボットみたいに改造されたのね……!
だけど………


『…再利用……?』


パスワードの意味が分からない。
再利用……リサイクル…………



(………まさか、使い道の無くなった彼と私を婚約させたのって、彼を再利用する為!?
もしかして……私、彼との婚約を破棄したら……この人は………)


背中がぞっと震える。
削除されるのか、アンインストールされるのかの二択。


(そんなことはさせたくないけど、でも………)


一人で途方に暮れていると、視界の端には四つ葉のクローバー……が山ほど、灰原ユウヤの両手の平に積まれていた。



『こんなに……まさか、全部私に?』
「……もらって、くれる?」


初めて声が聞けたこと、そして同じく笑みの感情を見せたこと、今のような短時間に大量の四つ葉のクローバーを見せられたことに感嘆の声を上げざるを得なかった。
言語作動プログラムで言葉が話せるようになり、表情作動プログラムで感情を見せて、物体探知アプリで四つ葉のクローバーを瞬時に見つけられるようにしたのね………


でも、言語を話せるようになったとしても……プログラムで動いている彼に性格なんてあるの?
口調は性格を表すものと言うし、プログラムでしか喋ってないでしょ?


そんな疑問を脳の片隅に置いて、両手の平を差し出してありがたく貰うことにした。
貰った後の彼の大きな笑みは、プログラムでもとても愛くるしかった。


…だ、ダメだって!可愛く思ったら負けなんだから!!
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