感謝感激!

□テレビ越しではなく目の前で
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「ミノリさん、準備はいいかしら?さっき近くにいた人たちを帰らせたわ……
…一言喋るだけなのに、台本いっぱい読み返してるのね」
『だって久しぶりにセリフ付きの出演なんだよ!
それに、いつかピタリと出演が無くなるかもしれないし……だから、出るドラマ全ては本気で行きたいんだ!』
「…もう、まだ若いんだからピタリとオファーが来なくなるなんてないわよ?
……あら…またあの子達がいる、ロケ見学かしら?」

マネージャーの何気ない言葉に、ミノリもなんとなく彼女の向く方を見た。
その「あの子達」とは…興味本位でミノリをじっと凝らしてこっそりと見学しているイサナと、無理やり連れてこられたダイキだった。

『…あっ、さっきのお姉さんだ』
「まぁ……親切なお姉さんってあの子だったの。
挨拶したいだろうけど、監督からコールかかってるわよ!ほら、荷物(スクバ)持って!」
『はっはい!じゃあ行ってきます!

………お姉さん、頑張ってきます…!』


イサナに手を振り、現場まで歩く。
彼女はミノリのファンサービスに気付いたのか、ぼけっとしたまま手を振った。

『……あのスマイル、やっぱ伊達マサムネちゃんだああああああ!!』
「うるさいね、俺は帰るよ」
『待ってよ、サイン貰いたいから一緒にいて!』
「1人で貰いなよ、俺には関係ないことだ」


ダイキの腕をぶんぶんと振り回したり引き戻したり、行かせまいとする。
…しばらく時が経ち、それが叶ったのか…彼は拘束されている腕をほどくなり、呆れて背を向け、腕を組んで立っていた。「待ってやる」と言ってないが、そうしているのは分かる。


『……ダイちゃん…!』
「勘違いするな、お前がしつこいから待っててやるだけだ」
『ありがとう、ダイちゃん!
ほら、伊達マサムネが出てるよ!歩いてからの…声をかける!』
「黙っとけ、もしくは黙らせるか?」







『ゼロ君、ゼットン君…!』

「……はーいOKでーす!お疲れ様でしたー!」


ドラマの撮影から2時間。
もう暗くなってしまう前に、ようやく本日分の撮影が終わった。
今回のドラマ、大丈夫かな……変に目立ってないかな?役者だけど、目立つのはまだ慣れてないというかなんというか……と、1人心配に陥っていると、またあの聞き覚えのある声が耳に届いた。


『マサムネちゃーん!こっち向いてー!』
『!? …さっきの、お姉さん……!?』

なんとも、ずっと場外で撮影を見学しているとは思わなかった。…どうして自分だと知って名前を呼んでいるのかは分からないが、再度笑顔で手を振れば、『うおーっ!サインちょうだーい!』と大きく手を振り返した。
彼女の周りを見渡す。…他にファンなる者はいない。1人隣にいるけど興味なさそうだし。
慣れてないが故に、周りを囲まれて声援を貰うのはとても緊張することだ。


それに大体のロケ見学の目的は、主役やメインキャスト以外にあるわけがない。
ない、とは言い切れないけど、まだ名前が大きく広まってない役者が、黄色い声もらって囲まれるか?
しかし、女性のファンなんて珍しいな…ライブにはいかにもアキバ系なオジサンが汗かいて盛り上がってるし。中には芋ジャージと変わった鳥の仮面被った集団が合いの手入れてたし。



「ミノリさん、そろそろ自宅に戻りましょう。この次の仕事に備えて今日は早く寝てください」
『はい、田宮さん!』


このままスルーしていいのだろうか。私のファンでいてくれる女の子にはサインくらい安いものだと思うが、田宮は気にさせないように背中を押して車に乗せようとしたのだ。


『あぁっ……行っちゃった』
「フン、ジャッジメントの逆位置……チャンスを逃すとはお前らしい」
『ダイちゃんうっさい!
次こそ貰うんだから!マサムネちゃんのサイン…!』
「次いつ会えるのか分かってんのか?」
『……き、きっといつか会えるって!
まだここの撮影は終わってない、つまりまたマサムネちゃんがここに来る確率は高い!』
「その自信がどうなって空回りするのが楽しみだねぇ」
『だっからうっさいっての!絶対会うんだから…!』


1人アイドルのサインに燃える女子高生の明日は一体どうなるのか…それはその日に知ることになる。
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