感謝感激!

□テレビ越しではなく目の前で
4ページ/4ページ

『今日もマサムネちゃんに会うためにやってきました!ミソラ一中!』
「こりないねぇ…本当に来るのかわからないのに」
『分からないから来てるの!それにダイちゃんに会えるんだし……』
「……ハッ、好きにしてな」

いい感じなんだか、微妙な空気が流れ込む。
しかしイサナは気にしてないのか、柵越しに学校の校舎を凝視した。おおがかりなセットがあるのか、本日も必ずロケが行われるはずだ。
柵の棒を握り締め…彼女の登場を待っていた。





(…うわわわわわ来てる…!昨日のお姉さんまたいる…!)

嬉しさ恥ずかしさ半々で、なんと反応すればいいのか分からず、もういいやと手を振ってみた。
…だが当の彼女はまだ捜しているのか、全く別の方向を向いている。言うなればすれ違い……気付かれないままだと恥ずかしいので、手を振るのを諦めてスタイリングに取り掛かった。



一般ピープル・秋原ミノリから、アイドル・伊達マサムネ(…しかしドラマでは本名名義での出演なので変わらず秋原ミノリ)に生まれ変わる。
長い髪を両側に垂らし、大人顔負けの美しい歩き方で現場に向かう。周りの大人は……みんな、彼女に一斉に注目している。


『うわあ、やっぱりキレイだなぁ…!』
「お前とは大違いだな」
『うっさいってば!
ほら、収録始まるよ……!』


イサナが外で注目しても…実際、彼女はモブの中のモブ役。芸能界用語で言えばエキストラ。もうすでにセリフは昨日の収録で言ってしまったため、もう言うことはない。
ただカメラの後ろで、他のエキストラとおしゃべりしてるフリをしているだけ。しかしイサナにとって…そんな彼女が、眩しかった。







「…ハーイオッケーでーす!お疲れ様でしたー!」


ついに本日分の収録が終わった。ただ本当におしゃべりしていただけだが、エキストラでもやりがいがあると感じ、頑張った印の汗が頬を流している。

『やばっ…メイク崩れちゃうっ』

近くのテーブルからタオルを取り出し、メイクを崩さないように優しく汗を拭いた。




『…あれ…マサムネちゃん、泣いてる?』
「……ムーンのカード…正位置…
不安、か」

ダイキは手品のように取り出したタロットカードを見つめ、少々表情を曇らせる。…何気に、彼も心配でいたのだった。
しかしおまけにもう一枚出すと……今度は、呆れたように溜息をついたのだった。

『私ちょっと慰めにいってくる!』
「…勝手にしてな。
…ホイールオブフォーチュン……逆位置とは、見込み違いってか?」


しかし彼女はもう一枚のカードを出したことなど知らず、わたわたと彼女の元へ走り出した。


『あのっ!伊達さん、泣いてるんですか!?』
『へっ!?……あっ…お姉さん、どうして…』

イサナに驚いて顔を上げるが、特に泣いたように目が腫れているような形跡はないミノリ。はてさて、泣いているのではないのかと聞けば今度は笑顔に戻ったのだ。
空いている椅子に座るよう催促し、イサナは席に着く。…ここで思ったのだ。ウソ、憧れのマサムネたんと一緒にいる…!
そして緊張で口がぱくぱくと動き上手く話せない聞けないの状態に早変わりしてしまった。


『あっあの!わわわ私はただマサムネちゃんを励まそうとしているだけなのにどどどどうしてこんなことに…!?』
『お、落ち着いてください!
私大丈夫ですけど…励まそうとしてくれてありがとうございます!
…まさか、あまりいい役じゃないのに応援してくれる人がいるのが嬉しくて……』

照れくさそうにはにかむ彼女に、イサナはまた見惚れてしまった。
だが、落ち着けと言われたし、挙動不審なままではいられない。ここはいつもの自分に戻って、彼女に激励を送った。


『私!ずっと、マサムネちゃんのこと応援してるから…挫けても諦めないで!
あとそれと、サインください!』
『え…ありがとうございます…!』

唐突に激励のあとにメモ帳を差し出され、なんと返答をすればいいのか再び迷う。
しかし彼女は駆け出しながらプロ、冷静に対処して持ち出している色ペンで、女の子らしくカラフルにサインを書いた。

『えっと、名前はなんですか?』
『某イサナです!』
『な、に、が、し、イ、サ、ナ……と。
…これでよければ……』
『ありがとうございますっ!家宝にしますコレ…!』
『……どうも………』

席から立ち上がって、一礼二礼とお辞儀をしてそそくさと去っていった。幸せに満ちたように口角を上げて…ガッツポーズを決めた。



これはイサナが事件解決者となった後、そしてミノリがLBXと出会う前の…いつかの話。


木公シ良様に捧げます!
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ