4seasons
□売る女
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今の恋愛が終わったらたぶん、ここにはいられなくなるだろうし。
こんなはずじゃなかったんだけどな。
もう一度、呟いた。
店内でクリップボード片手にペンを動かす、本社から来た上司を横目で見ながら、ストックから出してきた子供服をラックに順番にかける。
見た目的にも中身的にも悪くないんだけどね、どうもね。女癖が悪いみたい。
優しい男は、それだけで存在自体が罪だと思う。
前に他店舗にいた超可愛い契約社員と不倫してた、っていう噂を聞いたことがある。
一人だけにじゃなくみんなに優しいとか、正直意味がわからないとも思う。
私は私だけを好きになる男が好きだ。そういう男と恋愛がしたい。
奥さん、可哀想だなあ。
他人事みたいに、思った。
あまり罪悪感を持たないのは、私の美徳なのか悪徳なのか。
子供服の在庫と売れ行きのグラフを手に、彼は何かを考えているような顔でボールペンで額を掻いた。
これは迷っている時の彼の癖だ。
「新藤マネージャー、今日札幌支社に戻られるんですか?」
「いや、一応明日までの出張になってるから。こっち泊まりです」
「そうなんですか、じゃあ今日の夜はスタッフみんなでご飯でも食べに出ましょうか?」
「いや、今日はテナント元さんとミーティングを兼ねて食べに行くので。
僕の事は気にせずに皆さんでどうぞ。」
「そうですか、残念です。
今度またセッティングしますね」
「…夜、いる?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと行ってもいいかな」
「わかりました」
ちょっと、ね。
それは朝までを意味する「ちょっと」。
面白いことに人間という生き物は、神様の前で永遠の愛を誓っても、別な誰かと恋をしたいらしい。
淡白なのか、私には恋に対してそんな執着心は持ち合わせていないけど。