4seasons
□売る女
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売る女
笑顔は絶やさずに。
仕事上そう「教育」されてきた。
その教育は意外な方向へ効果を現わした。
こんなはずじゃなかったんだけどなー。
そう思いながらも笑顔で、コンコースというには短いフロアの中央を行き交う人々を眺める。
殆どはファミリーか、中高校生。ジャージ姿が多いのは近所にある中学校のせいだろう。
広げられて散らかされたシャツを片っ端から几帳面に畳んでいく。これも教育の賜物だ。
一枚3,000円程度のシンプルなTシャツも、奇麗に畳んだ状態でディスプレイされているように見せるのは本社からの通達。
いつも退屈なビートルズしか流れない店内。
コンコース向こう側のショップから流れるJポップのがよっぽどテンションがあがるわ、と内心思う。
デザイン系の専門学校を卒業したというのに、私は今、デザインではなくただの売り子としてアパレル業界の端っこにしがみついている。
デザインがしたくて受けたはずの会社で、まさかのショップ店員採用とか、ふざけてんなーって思った。
だけど就職難のこのご時世で、曲がりなりにも大手に正規採用という安定感を捨てるほどの勇気もない。
悪くはない、そう思い込むことに必死だった。
社販で服が買えるのが嬉しかったのも最初だけで、そのうち店内で売られている定番中の定番のあまり面白みのない服に飽き、売り上げとかノルマとかに縛られ、楽しいと思えなくなった。
だけど笑顔で、シャツは素早く美しく畳んで。
それでもなぜか、仕事は続いている。比較的真面目に。
今の恋愛が終わったら、辞めよう。
そう思いながら働いている。