ひらひらと、ひらひらと、誰かの涙のように花が風に撫でられて。

ぽかぽか陽気で良い気分。お気に入りの庭に面した縁側に寝そべって。

「なんだよ、先客が居るじゃねぇか」

ふるりと首を回して、銀色を見て顔を庭へ戻す。

「つれねぇなァ、くろ」

ナゥ、返事代わりに適当に鳴いてやる。どさっと音と共に床が揺れた。見上げると夕焼け色を映してきらめく銀髪。

微かに男から臭うのは鉄の香り。

くぁと欠伸をして、尻尾をゆらゆら揺らし耳を立てる。

脚で耳の後ろをカリカリ掻いた。


すみいろの猫.壱



「く〜ろ」

銀色の毛を持つ男がふさふさとした穂のついた草をゆらゆら揺らす。

と黄緑色がちの瞳がそれを追う。

「暇なんだよ、ちっとは構ってくんねぇ」
「ナァ」

どこか仕方ないというように体を起こして此方を見上げ。

尾をくねらせ、ソレに狙いを定める。

小さな狩人は既に臨戦態勢に入っていた。

しゅっしゅっ、パシッ

しゅっしゅっしゅ

しゅっしゅっしゅっ

しゅっしゅっバシッ

ポキンッと音が聞こえそうなほど軽く茎は中程で折れてしまった。

穂先をぶら〜んとさせながら、

「あ〜あ、折れちまったなァ。じゃあもう一本……」

「……ナァ」

ひょいと縁側から地面へ降りる。

「気が乗らねェか」

廃寺の縁側に座っていた男はそう言うと立ち上がり、手元の折れた草を捨てた。

「じゃあなァ、くろ」

「ナゥ」


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