よろず短編集
□それでは、また
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「ナマエ、パンケーキとはなんなのだ」
朝はぐずついて出るのが遅い太陽も空に昇り、ごきげんで燦々と辺りに光りを撒き散らし輝いている時間帯。とある豪邸の庭で一人日向ごっこしていたときだった。
まぁ、簡潔に言うと。
まだ朝の空気が抜けきっていないが、朝ご飯を食べるのには遅すぎで、昼ご飯を食べるのにはやや早い時間。
庭園でじゃぼじゃぼと水を勢いよく吐き出し続けている噴水向かいのベンチ。
御屋敷からは遠くないけどちょうど二階の窓からでも見えない絶好の位置。
サボリには便利なとっておきの私の秘密の場所だ。
…だっただが、最近はそうではなくなってきている。
「えっと、パンケーキ??」
「うむ、意味がわからん。食べ物の名前だとオズに聞いたのだが、それから詳しくは教えてくれなかったのだ。全く…下僕の癖に生意気なヤツだ。ナマエなら知っておるだろう???」
原因はお察しの通り。
黒くて大きな目の奥を純粋な期待で光らせて私を見つめている黒髪の長い髪を三つ編みにしている紅いコートを着た少女。
この前、ちょっと息抜きとこの場所に来たときにばったり遭遇してしまった。
サボリを悟られてしまっては大変だ。
と、そりゃもう必死の形相で一か八かの懐柔策と、取り敢えず会話を持ちかけ…
…で、兎にも角にも最終的には何とかごまかすことには成功したのだが……
「なぁ、ナマエ教えてくれ」
あの時、話がうまく流れてって、思わず調子乗って、わからないことは私に聞きなさいって言ったのがまずかったかな
…いやなんか、話の最初は必死にサボリを隠すための出任せだったんだけどね。
真剣に聞きいってくれてさ…そん時、ヒマだったのも拍車をかけて色々、ね。
例えば、庭園の花の一番の見頃とか、日当たりの良い昼寝所のこととかをべらべらと話しちゃったんだよね…うん。
まぁでもいっか。私、子供好きだし。
反省はしてます、はい。
さて、と…この少女の素朴な疑問に答えるべく頭を回転させましょうか…
「パンケーキっていうのは、そうだな…ケーキのスポンジよりも固くて平たい形のお菓子みたいなパンだよ」
「わかりにくい」
私はパンなのかケーキなのかハッキリとしてほしいのだ。
そう続けて呟いて、不機嫌そうにまあるく頬をふくらませる…まぁ何とも可愛らしい表情が見れた。
が、そう伝えると"私をからかっているのか"と怒られたことが近い記憶にあるのでこれも口にはださないことにしよう。
「ん〜と、あ、パンよりも柔らかくてケーキより固い食感の食べ物。何かね、もさもさとしてる」
「……それでは、何の説明にもなっていないのではないか…ナマエ」
呆れ顔で額に手をあてて言う彼女。
むう、年下の子に呆れ顔でそう言われると結構傷つくな…それにしても、今日は冴えていらっしゃいますね。
やはり食べ物に関しては興味が深いのでしょうか。あの時も最初は私の持ってた油っこくて、不思議な形の小麦粉菓子の匂いに釣られて此処に来たようだし…
そういや、花の話はノリがいまいちだったけど。その…食べ物の話になると途端に食いつきが良かったような…
「ほら、パンとケーキもほとんど同じもので出来ているから、ね……そう、説明が難しいと言うのかな…」
「む〜それは物凄く甘いパンなのか」
いや〜そうでもないな。やっぱり微妙…出任せはよくないね。
「いや、ケーキほど甘いワケじゃ…素朴な素材の甘さというのか…味付けもケーキだからってそんなに甘くないのもあるにはあるし………」
えぇ〜と……あり?…あれケーキだったっけ。いや、パンだったような…ヤバい此方もわかんなくなってきたぞ。
「私は甘くないケーキなど認めないぞ」
…まるで、私よりも遥かにサボリ魔の先輩のようなことをおっしゃいますね。
…年中飴かじっている癖に、虫歯の一つもないクリアク〇ーンな白い歯ってことに、毎日、激しく遺憾を感じている私です。
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