いざ、さらばんと。

□敵はとりました
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「あ〜至福だわ…」



デラックスパフェを一口一口スプーンでほじくり返して、口に運ぶ。

甘酸っぱいイチゴに、三種の冷たいアイスクリーム。ふんわりとしたホイップのほのかな控えめな甘さ。少し掘り下げたところで出てくるサクサクと音を発てるシリアルの食感を楽しみ。スプーンでチョコの乗った一角をほじくる。

次なるはイチゴの乗った一角。甘酸っぱい至福の味わいを思うと頬が緩んでしまう。すくった一角を口に入れた瞬間、ぐわんと。机が大きく揺れた。

衝撃を受けてデラックスなパフェが、そのエネルギーになすすべも無く振り回され、ごとりとあえなく倒れるさまがスローモーションで再生された。

思わぬ事故に固まった間にも、哀れ転がったカップの口からはアイスが溶けて混ざった不可思議な色の液体が机の端から床へとぽたりぽたりと流れ落ちる。

舌に甘酸っぱいイチゴの余韻を残し。スプーンをくわえ、私は呆けたまま。

木目に沿って私の涙のごとく机の端から床へと流れ落ちるアイスの筋を何度も目で追った。

え、ちょっと、ちょっと?待ってよ。まだ半分も食べられていないんですけど。どんどんと冷静さを取り戻し、正常化してきた頭にそんな言葉が浮かぶ。どんなに睨んでも凝視しても、中身を零れ落としては、店の内装を汚すパフェ。

元々の器であった巨大なカップは机の上で、中身をぶちまけて無惨にも転がったまんま。

「俺ァなァ!!医者に血糖値高過ぎって言われて…パフェなんて週1でしか食えねーんだぞ!! 」

週1?週1だと…こちとら、なんだかんだ切り詰めなきゃいけないから、軽く1ヶ月は我慢してたんですが。近くで聞こえた男の怒鳴り声に思わず反応してしまう。

1050円のパフェが300円で食えるって聞いて、うきうきウォッチング。スキップを交えながらのダッシュで来たんですけど。崇高な甘味というエネルギー摂取だけのために来たんですけども。

この仕打ちは一体、何?

叫ぶ男に、行き場が分からない怒りを獰猛な光と変えて、かなり剣呑な視線を男へと移す。


銀色の髪が照明を拡散させて跳ね返していた。


銀髪。種々様々、数多の天人と人間がごった返すこの街でもなかなか見かけない特徴的なその髪。ところどころハネてる、全てがクリンクリン。いわゆる天パ。


銀髪の、男。


だが、その彼も怒りで気づいていないらしき銀髪でクリンクリンな男は、叫びながら、刀……いや、木刀で残りの天人達を一斉にぶっ倒したしたところだった。

床に情けなくのびてしまった天人に目をやれば、どこか威圧的というか上等なお揃いの制服を着ている。これは、どこぞの大使か国使かという具合だ。

天人が驚きながら喚いていたところをみると、恐らくあの男、地球人なのだろう。地球の人間が天人をぶっ飛ばした。

……戦争時ならいざ知らず。敗を期して、散々苦杯をなめた筈の地球人が堂々と天人に刃向かった。

そのことに何時もならば驚愕するところなのだが。私にはそんなことに気を払う余裕は全くなかった。

……ちらりと私の机の下を確認するように目を移すと、だらしなく伸びて白目を剥いてしまった天人。

今、さっきにアノ銀髪の男に倒された天人達をよく見比べてみると。おんなじよ〜な虎猫によく似ている天人だ。あぁ、そうか、なるほどね。

……オッケーオッケー落ち着け、私。落ち着いたなイイな?


……あの銀髪は敵だ。

既に出て行った銀髪に視線をロックオン。左手で口からスプーンを抜きとった。



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