ウィーンー
「やいやい、そこの銀……」
「あら?」
大江戸ストアーの自動ドアの前に立っていたのは笑顔が素敵な女の人でした。
「新ちゃん?こんな所でなにやってるの?お仕事は?」
「げっ!!姉上」
「仕事もせんと、何プラプラしとんじゃワレ、ボケェェ!!」
「今月どれだけピンチか、わかってんのか、てめーは?!コラァ!!…アンタのチンカスみたいな給料もウチには必要なんだよ!!」
マウントポジションを獲得し、容赦ない攻撃を加えていく。物凄い綺麗なスマイルなのだけれども、言ってることがヤーさんだよね、やってることも。
「まっ…待ってェ姉上!!こんな事になったのは、あの男のせいで…」
死に物狂いそのものの形相で弁解しようと、ヤツのいる方を指差した。
銀髪ヤローは大急ぎでスクーターに乗り込んでいた。
「あ゛ー!!待てオイ!!」
ブロロロロロ…少年の叫びもむなしく、ヤローを乗せたスクーターは地の果てへと去ろうとする。
「ワリィ、俺。夕方からドラマの再放送見たいか…」
ヤツは逃げ切り確定と、余裕綽々の笑みで振り返る……
「………ら」
ニタァ……
スクーターの後部座席。そこには、素敵で綺麗過ぎなスマイルを終始振りまく、メガネ君のお姉さんが座っていました。
「いや、あのホント…スンマセンでした」
顔の輪郭も残らないほどにボコボコにされた顔で殊勝にも謝る銀パ。もちろんのこと土下座。その向かいに立って腕組みした冴えないメガネ君こと、新ちゃん。
その隣に静かにも佇みますは、竹刀を肩に乗せ。未だに美しくもゾッとするほど恐ろしさを纏うニコニコ顔のメガネ君のお姉さん。いや、様。
素敵過ぎるご尊顔からは、どう足掻き逆らっても、全てが無駄だと罪人に悟らせる絶対的なオーラを醸し出している。
そして、事の静観を決めこんだ私は彼ら姉弟の好意に甘えさせてもらい、道場の庭に面した縁側の安全地帯(?)から彼らの動向を静観させてもらっている。
静観といえども、お姉様と被害者同盟を結び、お姉様の怒りを受けた後で弱り切っているであろう銀髪ヤロウを直ぐにはっ倒すという崇高な理由のためだが。
「俺もあの…登場シーンだったんで、ちょっとはしゃいでいたというか…調子に乗ってましたスンマセンでした」
「ゴメンですんだら、この世に切腹なんて存在しないわ」
ニコニコ顔をあくまでも崩さずに、すらりと障子から漏れる光を反射するドスを抜く姉上様。
いや、あの、私がはっ倒すどころじゃなくね? 私がやる前に殺っちゃわねコノ人?
「アナタのおかげで、ウチの道場は存続すら危ういのよ」
「……鎖国が解禁になって二十年…方々の星から天人が来るようになって、江戸は見違える程発展したけど……一方で侍や剣…旧きに権勢を誇った者は、今次々に滅んでいってる」
獣が低く唸るような音が耳の奥でざわめく。空をゆっくりと行く舟が視界の端に映った。
「ウチの道場もそう……廃刀令のあおりで、門下生は全て去り。今では、姉弟二人でバイトして、なんとか形だけ取り繕ってる状態。……それでも、父の遺していったこの道場護ろうと、今まで二人で頑張ってきたのに…………」
そう、それなのに……
「オマエのせいで台無しじゃあ!!ボケェェ!!」
お姉様は光を浴びて輝く鋭いドスを銀髪に振り上げた。
先程まで目に映っていた船は既に行ってしまったようだ。
って、
「いやいやちょっと!」
彼女の腕を掴んで切っ先が銀髪に降り下ろされないように彼女を止めた。
「新八君!! 君のお姉さんゴリラにでも育てられたの!!」
「ウラァ!」
「おちつけェェ、姉上!!」
「待て! 待て待ておちつけェェ!」
銀髪の男は小さな紙を取り出した。
「なにコレ名刺?」
「頼まれればなんでもやる商売やっててなァ……、この俺、万事屋銀さんが、なんか困った事あったらなんでも解決してや…」
「だーから、お前に困らされてんだろーが!!」
「仕事紹介しろ、仕事!!」
「パフェの恨み!!」
「おちつけェェ!! 約一名、傍観に徹するんじゃねーかよ!! 仕事は紹介できねーが!! バイトの面接の時、緊張しないお呪いなら教えてや…」
「「「いらんわァァ!」」」
バギッボキッ
「うぎゃァァ!」
←[戻る]