Storys

□dim.
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川沿いの道を歩く。
赤い夕焼け空に、幼い日の記憶が浮かぶ。

小学校の日直の仕事を終えて、少しだけ遅くなった帰り道。
冷え始めた空に白い息を吐いて、芽唯はなぜだか嬉しそうに俺の三歩前を歩いていた。

従姉妹のお姉ちゃんから貰ったというクリーム色のフレアスカートをひらひらさせて、肩の少し下まで伸びた髪はあの頃からクセっ毛だった。

不意に走り出したかと思うと、住宅地の入り口に繋がる階段の前で立ち止まり、くるりと振り返る。
風が、振り向き様にクセっ毛の髪をフワリと攫った。

自分のランドセルを背負い、アイツのそれも抱えて追った俺の心臓は、既にバクバクと激しく脈打っていたけれど。

その姿は余計に心臓の音を速くした。

「おたんじょうび、おめでとーっ」

遠くで彼女が声を張る。
ランドセルも背負わないでちょっと走っただけなのに、もう肩を揺らして息を切らして。

―女なんだな、と思った。

俺が守らないと、と思った。
それは一瞬の、直感的な感覚で。

彼女の声に負けないように、俺も叫んだ。

「誕生日の奴にカバン持たすなーっ」

そう言うと、芽唯はケラケラと笑った。
俺は、嬉しかった。



ずっと一緒にいるんだと思ってた。
今までも、これからも、来年も、再来年も、中学生になっても、高校生になっても、その先もずっと。

アイツは、俺の近くで、ケラケラ笑ってるんだと思ってた。



その次の日の朝方、隣の家の騒がしさに俺は目を覚ました。

カーテンの向こうに白い大きな箱、赤いランプの点滅。



その日、芽唯は学校に来なかった。





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