【本】キミと奏でる愛の旋律

□第2曲
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見事に遅刻をしてしまった移動教室。
天馬、信助、葵、奏の4人は並んで廊下に立たされていた。

「ごめんね奏ちゃん。私達が引き止めちゃったから…」
『ううん。私こそお兄ちゃんが……その、ごめんね』
「と言うかビックリしたよ…」
「だよね」

あの後奏が教室を覚えていたので教室に辿り着くことはできたものの遅刻。
5分ほど怒鳴られた挙句廊下へ、と言うことである。
一番の遅刻の原因は拓人なのであろうがそれは蘭丸によって連行されて行った。
(それまでの間奏奏と煩かったのは言うまでもない。)


「まさか神童さんが先輩の妹で…」
「しかも…」


シスコンだったなんて。

口には出さなかったが全員その部分を察知したのであろう、苦笑いを浮かべた。
奏ですらも苦笑いである。


『あ、神童さんだとお兄ちゃんと被るだろうから奏でいいよ?』
「…葵は女子だから良いだろうけど…俺たちが呼び捨てして大丈夫かな…」

『ん〜…流石にお兄ちゃんも後輩にはそんなに言わないと思うな…』


名前の聞き間違えもよくあるし、私も名前で呼ぶね?と付け足せばじゃあそうするよ、と信助。



『何かあったら私に言ってね。お兄ちゃん私の言う事なら聞いてくれるから』



厳しい顔つきの拓人とは違い、柔らかい空気を纏った奏はふわりと笑う。
葵ですらも見惚れさせてしまうその美しさは兄繋がりか、とどこか他人事のように考える。

その時先生よりもう反省は済んだかと教室へのお誘い。
慌てて4人で駆け込んで2人2人に分かれて前後の席に座ることにした。
どうやらこの教室は2人分の机が引っ付いているタイプだったらしい。
1年の最初の授業で躓くまいと既に黒板に書かれていた内容を早急に写す作業にかかる。
言葉の意味云々よりもそれをノートに写すという事実が大切なのだ。


「わ、奏ちゃんのノート綺麗!」
『そうかな?葵ちゃんのノートも綺麗だよ?』

「え?どれどれ?」
「ほら!」
「おぉ!」「わぁー!」


色分けされたペン、きっちり引かれたライン、丁寧な文字。
まるで見本の様に整理されたノートは3人を叫喚させた。
当の本人はそれを当たり前としているせいかきょとんとしている。
自分のノートと見比べてみると軽く惨めにもなるような気がするが今はそんな事も忘れてノートをパラリと捲っていた。

「すっげー…」
「流石神童先輩の妹だよね…」

ずっと体を後ろに向けていた2人だったが、そろそろ先生の視線がキツくなってきたので仕方なく前を向く。
唯でさえ遅刻をして目を付けられている上に授業態度が悪かったら今後の生活に関わりそうだ。
少しの遅刻で廊下に生徒を立たせる先生だ。さぞかし面倒くさい事になるだろう。


キーンコーン


起立、礼、緊迫した空気が一気に緩まったと同時に生徒がざわめき出した。
ぷはっと息を付き手足を伸ばして思いっきり深呼吸をする。

「終わったー!」
『天馬くんも信助くんも最後寝てたでしょ』
「後でノート写さして貰っていい?」
『いいよ』
「あ!俺も俺も!」
「もー!二人とも赤点とって追試になっても知らないわよ!」

欠伸をしながら廊下を歩く2人を叱咤する葵。
奏とクラスは違うものの教室へは一緒の戻り道なので並んで歩いていると思い出したように奏が天馬と信助を見やる。

『追試になったらしばらく部活行けなくなっちゃうから気を付けた方がいいかも』
「「嘘!?」」

眠気も吹っ飛ぶ内容に目を見開いたが、奏が嘘を付くとも思えず。
わなわなと顔を青ざめて震える2人に今度は叱咤ではなくため息をつく葵だったが、この際2人の自業自得であろう。
既に授業の内容は頭に入っていないのか、赤点を取る要因はあるらしい。

『でも確かテスト前になったらサッカー部で勉強会するんだよ?先輩達もみんな』

その言葉にうんうん唸っていた頭を上げる。
言葉も出ない2人に話を続ける奏。


『大抵は学校の図書館とか自習室とかでやるんだ』
「へぇ〜」
「なら安心だね!」
「よかったわね2人とも。奏に勉強教えて貰いなさい」
「そうだな、頼むよ奏」
「僕も!」


「そうはさせないぞ松風。西園」


……………


「「うわぁあぁあぁぁぁ神童先輩!!!」」『お兄ちゃん!』



何処からともなく、音もなくやってきた拓人は地を這うような低い声で天馬と信助ににじり寄る。
まさに背後に修羅の見えそうな、いやむしろ化身が出てきそうな勢い。
蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなった2人の口からはなぜか意味もなく謝罪の言葉がぶつぶつと紡がれていた。


「………よし今回の勉強会は俺の家でやるぞ」
『え?急にどうして?』


「俺のテリトリー内なら奏に危害が加わらないからだ」



「「「(…えー……)」」」



後に3人は語る。
なぜこの人がキャプテンなんだろうと。

そして決まった今回の勉強会。
まだまだ中学校生活は始まったばっかり。




いざ行かん魔のテリトリー

(どうしよう信助…俺………この先輩について行ける気がしない)
(奇遇だね天馬…僕もだよ…)

(おい神童。奏が心配なのはわかるが廊下を叫びながら走るのは止めてくれ)
(?蘭ちゃんため息どうしたの?)
(…奏はいいよな)
(??)


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