【本】青春ボイコット

□第1話
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小さい頃からサッカーが好きだった。

何も考えずにあの白黒のボールを追いかけて、泥だらけになっても皆で笑って、辺りが暗くなるまで球を蹴っていた記憶は今でも色褪せることがない。
でもサッカーは変わってしまった。


"管理サッカー"
"フィフスセクター"


サッカーは変わらない。変わってしまったのはサッカーをする僕達の方でしょ?



















『遅刻だーっ!!』



バタンと慌ただしく木枯らし壮のドアを開けたのは学ランを着た少年。
少年と形容するには少し語弊がありそうな容姿をしているが、服装を見れば誰もが少年と思うであろう。


「あらおはよう夏目くん」
『おはようございます秋さん!と言うか何で早く起こしてくれないんですか!』
「夏目くん気持ち良さそうに寝てたから、つい」
『"つい"じゃないです!行ってきまーす!』

「行ってらっしゃい」


まるで漫画のように焼いた食パンをくわえた夏目と呼ばれた少年は木枯らし壮の入口付近で箒掛けをしている女性……木枯らし壮のオーナー木野秋を見かけるとその場で駆け足の足踏みをし、尚且つ早口で挨拶をまくし立てると全力疾走で学校へと駆けて行った。

その光景を微笑ましく見守り、夏目の姿が見えなくなった所で手を振っていた秋があ、
と声を上げる。
手に持っていた箒を思わず落としそうになったがなんとか留まり、朝早くから夏目と同じ目的地へ駆けて行った少年の事を思い出した。


「夏目くんに天馬の事言い忘れちゃった…」


この木枯し壮に住む夏目に同じくサッカーを心から愛し、楽しんでいるもう一人の少年の事を。

「まぁ大丈夫かな」

天馬だし、と言葉を付け足して秋は再び掃除を始めた。




澄んだ青色をしているこの雲一つないこの大空の下、一つの物語が今つながり始める。

















稲妻マークがトレードマークの雷門中学。
桜の舞い散るこの季節、真新しい学ランを着てコンクリートの道を駆ける。
夏目は息を切らしながら門前で立ち止まった。
興奮と不安、いろいろな気持ちが混ざりながらそびえ立つ学校を見上げ、大きく深呼吸をする。





『ここが雷門中学……』





荒くなった息を落ち着けるようにゆっくりとした足取りで歩を進めると辺りから気になる言葉が。



「なぁ今サッカー棟で新入生とサッカー部がやりあってるらしいぜ」
「なんかヤバい感じだったよな」

「見に行ってみようよ」
「え〜」



『新入生…?サッカー部…?』


さっきまでの爽やかな気持ちはどこへやら。

嫌な予感が胸を渦巻く中、会話に出ていたサッカー棟を探す。
だが初めて訪れた地で1つの目的地に着く筈もない。
数分間辺りを歩き回った所でしまった、と一度立ち止まった。



『……サッカー棟ってどこだろ』


「サッカー棟ならあっちだよ」
『お?』



呟いた言葉に返事が返ってきたことに驚き、振り返った先にいたのは1人の女子生徒。
学校指定のスカートを長く伸ばし、スカートと同じ長い髪は赤とオレンジの混ざったような印象的な髪色をしておりその頭にはリボンがあしらってある。
場所を知っている、ということはここの在学生。
つまりは先輩に当たるのだろう。



「面白そうだからあたしも今から行く所なんだけど一緒に行くかい?」

『いいんですか?』
「あぁ。着いてきな』



姉御肌な口調に行動、夏目は同年代か先輩も確認をしなかった彼女に思わず敬語を使い後ろからついて行く。
彼女の足取りに迷いがないのを見て、先輩であろうことに確信を持った。


「あたしは2年の瀬戸水鳥。あんたは?」
『水城夏目です』

「夏目か…あんた、いい目してんじゃん」


そう言ってフッと笑う水鳥。

夏目はそんな水鳥を視界に留めたままサッカー棟へと向かえば見えてきたのは校舎と同じぐらいの大きさの建物が見えてくる。
校舎に立ち並ぶそれを夏目はてっきり体育館かと思っていたが、



「ここがサッカー棟さ」
『……でかっ!』



そびえ立つ棟の全貌を見ようとすれば首が痛くなる。
水鳥はそんなこと今更と言わんばかりに入口へと歩を進めて行った。


「…にしても中が騒がしいね」


入口に立っているだけなのに聞こえてくる声は中で何かが起こっている証拠であろう。
ここまで来て夏目は再び嫌な予感が胸を過った。
ざわつく心。理由も分からずなぜか伝う汗。



でも、それ以上にそのざわつきを楽しみしている自分がいた。



こからはじまる第一歩


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