【本】青春ボイコット

□第3話
1ページ/1ページ



「俺は…大好きなサッカーを守る!」


ボールの渡った剣城に駆けて行く天馬。
夏目はその言葉と行動に思わず笑みを零す。


『ホント、天馬は僕と一緒だ』


黄色いユニフォームをはためかせ、緑色のフィールドを駆ける。
天馬に続く様に夏目はグッと足に力を入れた。




-奪還-



飛び込んだ天馬はすんなりとかわされ、剣城は故意に霧野へとボールを蹴る。
霧野に当たり、跳ね返って剣城の元に戻ってきた所に天馬はもう一度駆けこむが既に帰還したボールは今度は倉間へと蹴り込まれていた。
次々とそのボールの餌食になる雷門サッカー部。

その様子を殆どポジションから動かず見ていた夏目。



「サッカーを守るだと…?笑わせるな」



いつの間にか立っているのは夏目や天馬を含む数名だけ。
倒れる仲間。不敵に笑う剣城。


「お前のサッカーへの愛はそんなものか」


天馬の表情に少しの陰りが生まれ、剣城はボールを止めて天馬に言い放ったその時。
今まで足を動かさなかった夏目初めて動いた。


『愛って言うのは量るもんじゃない!』
「なっ…!?」


いつの間にかセンターまで上がっていた夏目は流れる様な動作で剣城からボールを奪う。
突然の事に少し同様したのか味方である雷門側でさえも夏目の動きについて行くことはなかった。
動き出した黒の騎士団のディフェンス陣が夏目に立ち塞がるも夏目は右に左に華麗なドリブルで壁を抜けて行った。
最後に立ち塞がるはゴールの目の前。
キーパーの構えるそのゴールに夏目は不敵に微笑んだ。



『グラディウスアーチ!!』



それはまるで幾多の剣の様な鋭いシュート。
古い記憶に残るそのシュートに久遠・音無は息を呑み、全員が固唾を飲んでボールの軌跡を追う。
空気すらも切り裂くボールはキーパーの手すら掠ることなく真っ直ぐにゴールへと向かっていった。


黒に騎士団のゴールに転がるボールの存在は雷門の初得点を示している。





ピーッ





誰もが目を見開いて唖然とした時前半終了の笛が鳴った。

「水城夏目…あいつは何者だ…!?」

騎士団のベンチから黒木がボソリと呟いた。






ベンチに戻って用意されたドリンクを手に取る。
ドリンクを飲んでいる夏目の傍に慌てて音無が駆け寄った。

「あの…水城くん!」
『?何ですか先生』
「貴方、どうしてあの技を……!?あの技は虎丸くんの……」

グラディウスアーチ、その技は10年前イナズマジャパンを優勝に導いた内の一人、宇都宮虎丸の必殺技だ。
この場にいる雷門イレブンの中学生がそれを知るはずもない。
その筈の必殺技を目の前にいるこの少年は使って見せた。
そして見事に点を取って見せた彼は笑う。


『教えて貰ったんです。虎丸先輩に』


あっさりと言ってのけた夏目だったが、そう簡単に他人の必殺技を覚えられるものではないと言う事。
10年前からずっとサッカーを見てきた音無はそれをよく知っている。



『きっとその内わかると思いますよ』



そう言って夏目は天馬の方へ歩いていく。
歩いて行く背中に音無は懐かしさすら感じた。



「これがフィフスセクターのやり方だ。」

「フィフスセクターって…」
『天馬、フィフスセクター知らないの?』
「え?夏目は知ってるの?」
『当然』



十年前からサッカーの人気が高まり、その強さが学校の社会的な地位を決めるまでになってしまった事。
サッカーが人の価値を決める1つの要因となっている事。
この事態を救済するために造られたサッカー管理組織。それがフィフスセクター。

知らされた事実に天馬は驚愕するしかなかった。

サッカーは支配されたのだ。
フィフスセクターと言う管理組織の名の元に。



「だけどな、たまにはまともな試合だってあるんだ。」



拓人の表情には色んな感情が交錯していた。
その感情の真意を知ることは誰もできない。


「そんな時は思いっきりサッカーができる」


暗にそれは普段は普通のサッカーができないと言う事を示していた事に気付いたのは幸か不幸か夏目だけだった。







無情にも後半開始の笛は鳴り響く。
前半の事もあり警戒をされているのか夏目にはきっちりとマークされていた。


『(さっきのは油断していたからできた事…流石にもう無理かな……)』


本来の実力はきっとフィフスセクターの方が上だろう。
冷静な分析からもうあまり派手には動けないことを悟りキックオフを見守る。

笛が鳴ったとほぼ同時に拓人はスライディングを仕掛けたが剣城はそれを軽く弾き飛ばし、拓人はフィールドへ倒れ込んだ。



『神童さん!』
「キャプテン!」


近寄ろうにもマークがキツく身動きが取れない。
夏目はもどかしさに眉をひそめた。


「どうした?早くも降参か?」





「―ッ!!くそぉおぉー!」




こんなところで、と神童が立ち上がり再び剣城に攻め掛かるがまたもや軽々と避けられてしまう。
横を通り過ぎる拓人。
すれ違い様に剣城は囁いた。


「諦めたらどうだ。お前たちはお払い箱なんだよ」


MF、DFを薙ぎ払い剣城のシュートはゴールに突き刺さる。
一方的なゴール、肩で息をする拓人。
呆然とそれを見守る夏目。


「おれたちに勝つことなんてありえない。お前たちのサッカー部は終わりなんだよ」


剣城の言葉に答えを返したのは天馬だった。


「サッカー部は終わらない!」
『天馬……』
「雷門サッカー部はだれにも渡さない!絶対に!」


強く言い放った台詞が癇に障ったのかギリ、と歯を噛み締めた剣城。
たかがこんなボール1つに何の価値がある。
剣城は足元にあるボールを蹴り、高らかに叫んだ。




「じゃあ奪ってやるよ!」




言葉と共に拓人、天馬、夏目以外は地に伏した。
死屍累々、その表現が正しいだろうか。
立っていることにすら疑問を思えるが動くに動けない。


「おまえが憧れている雷門はしょせんこの程度だ」


この惨状に我慢できず、ついにフィールドから去って行く水森。
1人。たった1人ではあるが、このフィールドを去るという行為が士気を下げていく。
去っていった出口から目が離せない。


『(どうして…そんな簡単にフィールドを譲れるんだろう)』


それでも試合は続行される。





「やるよ」

天馬に渡されるボール。
次々と黒の騎士団をドリブルでかわしていく天馬だったが、それは点を取りに行く為のドリブルではない。
敵陣に味方の陣地に縦横無尽に駆け回る天馬。
パスを要求されてもパスは出さず1人でひたすらドリブルをし続ける。
その一つ一つの行動から導き出される答えは一つしかなく、夏目は呟いた。


『守ろうと…してる…?』



パスを出せばまたボールを取られ、黒の騎士団は迷わず誰かを傷付けるであろう。
それを見越しての天馬の行動に気付き、マークのなくなり自由になった夏目は天馬の元へと全力で駆け出した。

剣城が指を鳴らす。



「もう逃げられないぜ」



途端に黒の騎士団全員に囲まれた。
前後左右見渡してもボールを保持したままの人が抜ける隙間はなく天馬は顔をしかめる。


『天馬!』
「夏目!?」


天馬を囲む黒の騎士団の円を抜け、天馬の隣に立ったのは夏目だった。
誰も傷付けまいと思ってパスを出さなかったのにこれでは意味がない。
早く逃げろ、言おうとした天馬に夏目は小声で囁く。



『天馬にやりたいことは分かってる。だから僕にボールを貸して欲しい』
「でも…それじゃあ夏目が!」
『僕も守りたいんだ!』


真剣な目つきで天馬に訴える。
確かに、夏目の方がサッカーは上手いかもしれない。
でも今ここで夏目にボールを渡して夏目が傷付かないとは一概に言い切れず、天馬はグッと拳を握る。


『僕にも守らせてくれよ、雷門サッカー部を…!』
「!」

『僕を信じろ、天馬!!』


目と目を合わせ、夏目は頷く。
天馬は真っ直ぐなその瞳を信じ、ボールを夏目へと託した。





がり始めたと心
(フィフスセクターなんかに…雷門サッカー部は渡さない!)


_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ