【本】青春ボイコット

□第6話
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「ねぇねぇ!君も今朝天馬と一緒に試合してた水城夏目くんだよね!」
『あ、うん。そうだけど……君は?』

「僕、西園信助!僕もサッカー部に入るつもりなんだ!!」

『そっか。じゃあよろしくね信助!』
「うん!よろしく夏目!」




-崩壊-




楽しみなことがあると時間が過ぎるのは早いもので。
同じくサッカー部を志す信助とも知り合い、天馬を含めた3人でサッカー談議をしている間にもう時刻は放課後までに至っていた。


「天馬!今日もう終わりでしょ?帰ろ!」
「俺達これからサッカー部に行くんだ」
「なんか心配だな。朝あんなめちゃくちゃなことになってたし……。…あれ?俺達ってことは君達も?」


チャイムが鳴ってすぐに駆け出そうとした3人、正確には天馬を呼び止めたのは青い髪青い瞳が印象的な一人の少女。
知り合いなのだろうサッカー部に行くと言う予定を告げれば少女は疑問符を浮かべ隣に並ぶ夏目と信助を見やった。


「えと…西園くんに…朝天馬と一緒にいた、水城くん…だっけ?」
『うん!名前覚えててくれたんだ、空野葵ちゃん』
「あれっ、私の名前……」

『朝サッカー棟で天馬の事見てたでしょ?だから自己紹介で聞いてたんだ』


客席の前で見を乗り出して天馬を見ていた葵に見覚えのあった夏目は教室ですぐに葵の姿を見付けた。
もとから何かを聞いたり暗記したりというのが嫌いではない夏目は葵を含むほぼクラス全員の名前と顔が既に一致している。
名前を自分から聞いたのは自己紹介もしていない中教室に入った途端に声をかけられた信助ぐらいだ。


「へぇ〜…僕なんか聞いてたけど全然覚えられなかったよ」
『暗記したりするの好きなんだ』
「変わってるのね。じゃあ改めて!私、空野葵。天馬とは同じ小学校だったのよ」

「と言うわけで、じゃあな葵!」
「俺達急ぐから!」


廊下を駆ける天馬と信助。
本来ならその軍に夏目は加わる筈だが葵がいる手前夏目は足を止めたままハァとため息をついた。


『と言う訳でって…女の子の扱い雑いなぁ天馬…』
「ホントよね!まったく…水城くんを見習いなさいよね。同じ男でも大違い!」
『あはは…』


自分も女です。
そうは言えずに苦笑いを浮かべたまま夏目は葵と共に天馬達を追った。








サッカー棟に向かう道のりにはサッカー部旧部室がある。
今朝剣城によって破壊されたそこは見るに堪えない。
"サッカー部"そう書かれた板は真っ二つに割られている。

自分の無力さに夏目はグッと拳を握った。
所詮自分は子供なのだ。


『ごめん、3人とも。先行ってて貰っていい?』
「え?」
「…わかった。先行ってる!」「ちょ、天馬!?」


何かを察したのか先陣をきって走り出す天馬。
その背中に夏目はありがとうと呟き、ゆっくり部室へ近付いた。
"サッカー部"と書かれた板に触れて愛おしそうにそっと表面をなぞる。



『……』



廃れてしまった栄光はもう戻らないのか。
"楽しい"サッカーなんてもうどこにもないのか。

でも、ここに立つと決めたのは紛れも無い自分。


『…諦めない』


諦めたらそこで終わりだ。
天馬が言う"なんとかなる"が今は妙に心強い言葉に感じた。







多くの部員で賑わっている筈のサッカー棟は静けさに包まれていた。
来るまでに何人かサッカー部かと思われる人達とは擦れ違ったが、このサッカー棟にはまるで人気がない。

―しまった部室がわからない。

今朝も似たような事があった気がする。
デジャヴだ。夏目がそう思うも今は今朝のように水鳥の様な救世主はいない。
まずいなぁと本格的に思うがどうしようもできず。


「何が"サッカーが可哀相"だよ!」
「笑っちゃうよな」


不意に聞こえてきた大きな笑い声。
夏目はくるりと振り返り、自分の耳を頼りに歩き出す。

「バッカじゃねーのあの一年。ホントにそんな事思ってんだか」

視界に見えてきたのは水守を始めとする一部のサッカー部員。
様子からしてサッカー部を抜けてきたと察した。
なら部室はあっちか、思うと同時に会話の内容である台詞は天馬だろう。
捨てたもんじゃない、なんて柄にもなく考えた。
周りは冷たくも、真っ直ぐに今を見つめている天馬が眩しい。
今のサッカー部でそんな事を言う事が出来るのは彼しかいない。

あちらも夏目を視界に入れたのだろう、一瞬立ち止まったものの何もなかったかのように歩き出す。
端に避けて2年3年達が横を通り過ぎようとした時夏目は口を開いた。


『逃げるんですか』
「…そーだよ。ワリーか」
「俺はお前とは違って強くないんだよ」


短く返して歩いていく水守達の背中に夏目は悲しそうな視線を送った。





『僕だって………っ』


『他人が言う程強くない、ただの人間だよ』








べられないの強さ

(握った拳は知られることもない)

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