【本】無印夢

□"またね"の重み
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夕香ちゃんの目が覚めた、豪炎寺くんが嬉しそうに私に報告をしてくれた時心から良かったと思った


私みたいに大事な妹、弟がいなくなったりしなくて、って
あんな悲しい思いを豪炎寺くんにして欲しくない

私はあの時の絶望感は今でも忘れたことはない
(もう私に無邪気に笑ってくれたあの笑顔が見れないのか)
(私がサッカーさえしてなければあの子は死ななかったのか)
思い出してもキリがない

だからなのかな、豪炎寺くんが自然と私と重なって見えるのは



『ねぇ豪炎寺くん、今度私も夕香ちゃんのお見舞い行っていいかな?』



私の口からは無意識にそんな言葉が飛び出していた

豪炎寺くんの肯定の言葉を貰って思わず笑顔になる
夕香も喜ぶ、と言った豪炎寺くんの表情はいつもの豪炎寺くんとは違う優しさを含んでいた









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練習の終わった帰り道
いつもは家の方向が違うから門の前で別れるけど今日は違った
サッカー部の皆にじゃあね、と声を掛けてから豪炎寺くんと二人で病院に向かう

途中で小さな花束を購入
…お店の人に少しからかわれたけど、ね
(私と豪炎寺くんが彼氏彼女だなんて!)

豪炎寺くんの妹、私の弟、違うけど似てる境遇
でもやっぱり違うのはその存在が今あるかないか、
私は亡くしてしまった。だから彼には大切にして欲しい
私からすれば夕香ちゃんは他人かもしれないけど、一緒に大切にさせて欲しいと思う私は傲慢だろうか



そんなことで私の罪が消えるなんて、思ってないけど













「夕香、入るぞ」


“豪炎寺夕香”と書かれたプレートが見え、扉を豪炎寺くんが開ける
壁から頭だけをコッソリ覗かせてみれば視界に入ったのは豪炎寺くんとは違う茶髪を二つのお下げにした女の子
どことなく豪炎寺くんに似ている、と思っているとベットに横たわっていた夕香ちゃんはパッとベットから起き上がった


「お兄ちゃんっ!」
「元気にしてたか?夕香」
「うん!」


豪炎寺くんの表情がまた柔らかくなる
微笑ましいな、と見守っていれば夕香ちゃんがこちらに気付いたのか目線がこっちを向いた
ちょっと入りづらいなとおどおどしてるとそれが豪炎寺くんに伝わったのか腕を引かれて病室へと足を踏み入れた


「お姉ちゃんだぁれ?」


首を傾げて聞いてくる夕香ちゃんはとっても可愛い
私は抱えていた花束をギュッと抱きしめて夕香ちゃんのベットの前まで歩を進める


『初めまして夕香ちゃん。夕香ちゃんのお兄さんのお友達、氷星唯です』
「お兄ちゃんの…?」
『そうだよ。お兄さんのチームメイトなの』


やっぱりこの子もサッカーが好きなのだろう、パァッと明るくなって本当!?と聞き返してきてくれた


「お兄ちゃんがね!この前友達にサッカーが上手なお姉ちゃんがいるって言ってた!
ねぇねぇお兄ちゃん!もしかしてサッカーが上手なお姉ちゃんって唯お姉ちゃんのことなの!?」


まさか自分の事を話してくれていたなんてと豪炎寺くんの方を見れば、豪炎寺くんは少し顔を赤くしながらそうだぞ、と夕香ちゃんの頭を撫でる


「すごーい!唯お姉ちゃん!私も練習したらサッカー上手になる?」
『勿論!』


豪炎寺くんが私の事サッカー上手いと思ってくれてたんだ、と嬉しくなったのは内緒


「唯お姉ちゃん!私がリハビリ頑張って、もっともーっと元気になったら私とサッカーしようよ!」
『あれ、お兄ちゃんはいいの?』
「お兄ちゃんもー!!」
「まったく、夕香はわがままだな」


持ってきた花束も古いお花と取り替えて、ベット横にあるパイプ椅子に座る
他愛もない普通の会話が妙に愛しい


『夕香ちゃん、またお見舞いに来てもいいかな?』


そう言えば夕香ちゃんは華の咲いたような笑顔になった

「唯お姉ちゃん本当にまた来てくれるの?!」

笑顔が眩しい、
でもこれだけ喜んでもらえると私も嬉しくなった
やったー!とベットの上から私の腰に抱きついてくる夕香ちゃん
こんな風に年下の子に抱きつかれたのは久しぶりだ
でも悪い気はしない


「夕香、まだ無茶はするなよ」
『そうだよ、早く元気になって一緒にサッカーしようね!』
「はーい!」


ニヤけるとまではいかないけどどうしても口元が弧を描いたままで
ここまで懐かれるとは嬉しい誤算
豪炎寺くん、夕香ちゃんと過ごす時間はあっと言う間でもう帰らないといけない時間になってしまう
帰る前は凄い渋られたけどまた来るね、と言えば笑顔で送り出してくれた

家まで送ると提案されて一回は断ったけどお礼だ、と押されてしまい私の家への帰り道を一緒に歩く


『夕香ちゃん、元気そうでよかった』
「また顔出してやってくれ、じゃないと夕香の機嫌が悪くなりそうだ」
『あはは、そうだね』


気付けば私の家の前
また一緒にお見舞いに行くことを約束してまた明日、と別れた




“また一緒に”
“また明日”




その次があるってことがこんなにも嬉しい
それを知れたのは貴方達のおかげ




(“またね”の重み)



3人でサッカーをする未来を思い描いて私は次が来るのを待つんだ




(お兄ちゃんお兄ちゃん)
(なんだ夕香)
(唯お姉ちゃんってお兄ちゃんのコイビトなの?)
(……は?)
(お兄ちゃん顔真っ赤ー!)
(ち、違うぞ夕香。氷星は……!)

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