【本】無印夢

□その怒りの理由は
1ページ/2ページ



次の試合の相手―木戸川清修は豪炎寺が雷門へと転校してくる前通っていた中学


彼にして見れば元は仲間だったもの達と戦う事になるのだ
多少は酷かもしれないが、それは致し方ないこと
そのことを割り切り鬼道を中心として円堂や豪炎寺、唯達は木戸川清修を破る作戦を練っていた

『やっぱり…戦い辛い?』
「いや……大丈夫だ氷星」

作戦会議中もどこか上の空の豪炎寺
唯は声を掛けてみるが、豪炎寺の表情は依然として変わりない
きっと頭で分かっていても心は追いつかないのだろう



「よーし!作戦会議は一旦休憩だ!」



円堂が元気よくどこかへ向かって走り出す
来いよ!と3人に声をかけたものの、何処へ行くのかは告げない
きっと円堂なりの気分転換の誘いなのだろう
相手の事を見ていない様で、しっかりと相手を見ている円堂に尊敬の念を抱きつつ、唯は円堂の後をついていった








そして着いた先は


『…駄菓子屋?』


商店街の中にある昔ながらの駄菓子屋だった
駄菓子屋なんて何年ぶりだろうと記憶を辿る
ちなみに、隣にいた2人は来た事がなかったらしい
小さな子供達もおり、賑わう駄菓子屋に中学生が一人堂々と入っていく
なんとも面白い光景である


準決勝頑張ってね!
ちなみにお勧めは酢昆布だよ!


そんな会話も飛び交う中、鬼道と豪炎寺は駄菓子屋の外にある自販機で飲み物を買い、傍にあるベンチに座り込んでいた
唯もまた駄菓子屋である程度の駄菓子を買い、早々と2人の元へと向かう
その時入れ違いである人物達が中に入って行ったことに、3人は気付けなかった


「氷星…それ買ったのか?」
『えへへ…なんだか急に食べたくなっちゃって……いる?』
「いや、遠慮しておく」


小さな袋に入っているのは小さい頃誰もが食べたことがあるような懐かしの駄菓子
どれから食べようか、なんて考えていると、店の中から明らかに円堂ではない少年の声がした


「退けよ」

「あーっ!割り込みはいけないんだよ!」
「お前等順番守れよな!」


その後円堂の声や子供の声がして慌てて店内を見た
そこに立っていたおそらく三つ子であろう、顔つきのそっくりな3人の少年
豪炎寺の表情が変わったその一瞬を、唯は見逃さなかった


「3対1で俺達の勝ち〜みたいな?」
「人数の問題じゃないだろ!!」
「いいえ、人数の問題です」
「俺達は常に、3身1体なんだよ!」

『3身1体なら1人分ってカウントして円堂くんと私で2対1。だから早くそこ退いてあげて』

「「「ん?」」」


この手の輩がダイキライな唯は思ったことをそのまま口に出し食って掛かる
3人の視線が唯達の方へと向いた時、3人の内の1人がある人物に声をあげた




「豪炎寺!」

「久しぶりだな…決勝戦から逃げたツンツン君!」




豪炎寺が顔を背ける
どうやら顔見知りである事は間違いないようだ
駄菓子の話は何処へやら、3人は華麗にポーズを決めながら自己紹介を始めた

この3人は次の対戦相手である木戸川清修の3トップらしい
それから分かる事は、彼等が豪炎寺の元チームメイトだという事
唯は拳を強く握った
先程の言葉が離れない、手に持った袋がクシャリと音を立てる
3人は自分達が有能であるととことん自慢し尽くし、雷門が弱小であると決め付け、そして再びポーズを決めてこう言った




「「「俺達が豪炎寺修也を叩き潰すとな!!!」」」




駄目だ、…イライラしてきた

頭の片隅で唯は必死に何かがキレないように繋ぎ止める
店の中では邪魔になるのでとりあえず外へ出て、対立した
何故豪炎寺を叩き潰すのか、その理由は彼等武方3兄弟からすれば理に適った正当な恨みの理由

豪炎寺に夢を託し、それを裏切られたというその話だけ聞けば豪炎寺が悪いように聞こえる
だが、豪炎寺が決勝戦に行けなかったのは、妹である夕香が事故に遭ってしまったからだ



「待ってくれ!豪炎寺は…「お前は…俺達の夢を裏切った!」
「英雄だと思っていたのに、決勝戦のプレッシャーにビビッて逃げ出した…卑怯者だったんだ!!!」



『違う!!!!』




円堂が言う前に、唯の声が響き渡った
ずっと握ったままの手は少し変色している


『あの日豪炎寺くんは…!』
「やめろ」
『だけど…!』
「もう済んだ事だ…事実は変わらない」


事実は変わらない、確かにそうだ
でも唯が怒っているのはそこではない

「しかも女に庇われてるなんて…マジダサいし〜、みたいな?」
『…ッこの…!!!!』

唯は目を見開き今にも殴りかかりに行きそうな勢いで足を前へ踏み出そうとした
でも、視線の先には地面に置かれた1つのサッカーボール

「ま、折角挨拶に来たんだし偵察するよ。今の豪炎寺くんの力を見てみたいな〜みたいな?」

―どこまで人をバカにすれば気が済むのだろう


「悪いが…そのつもりはない」
「おやぁ〜?また逃げるつもりですかぁ?」




プツン




「やっぱりお前は…」

「臆病者の卑怯者だーっ!!!」




勢いよく蹴られたボール
それは背中を向けた豪炎寺へ向かって真っ直ぐと飛んでいく
円堂がそのボールを手で弾こうとした時、それよりも早くボールは武方3兄弟の方へとこれまた勢いよく飛んで行っていた



「「「なっ……!?」」」



それを蹴り返したのは唯だった
ボールは武方3兄弟の目の前で地面に跳ね返り、上空へ真っ直ぐとあがる
そのボールが落ちてきたのは、武方勝の手の中




『これ以上豪炎寺くんをバカにしないで』




唯の瞳から伺えるのは静かな怒り
シュートを蹴り返した事に多少驚いていたものの、開き直ったように唯の言葉への返事を返した


「バカにするも何も」
「俺等は事実しか言ってないし、みたいな?」


唯だけでなく、今度は隣で体を震わせていた円堂も何かが爆発したように3兄弟を指差し、叫んだ


「もう我慢できない…!お前等の偵察とやら、俺が豪炎寺のかわりに受けてたってやる!」
「円堂!」


思わず豪炎寺も声をあげる
だが武方3兄弟はそれを小馬鹿にするように鼻で笑った


「何言ってるの?」
「ちょ〜意味わかんないんだけど、みたいな?」

『代わりに相手するって言ってるんだよ?そんなことも分からないの?』

「な…ンだとこの女…っ!!」
「俺達の事『“バカにしやがって”?…それはこっちの台詞』
「いい度胸じゃねぇか…」



『じゃあ、私とも勝負する?』



「ハッ!誰が女相手に勝負するかよ、みたいな?」
『へぇ〜………逃げるんだ?』
「何だと!?」


そう言った唯の表情は笑っているのに、完全に心は笑っていなかった

いつもの唯を知っている豪炎寺達が、軽く恐怖を覚えるほどに



「上等だ…その勝負受けて立つぜ!」
「後悔するなよ、みたいな?」




私は貴方達がダイキライ



「おい氷星…!」
『…わかってる。でも止めないで』
「!」


何もかも勝手に決め付けて、全部相手の所為にして
それを盾に自分は何も成長しない、しようともしない
事実を知ろうともしないで罵倒を撒き散らす
一体彼がどんな気持ちで去年の決勝戦を迎えたのかを考えもしないで
さっきも言っていた、事実は変わらない
でもこれからのことは変えていけるのに

変えようともしないその心が、私はダイキライ



_
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ