【本】無印夢

□考えても出ない答え
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嵐は、ジェミニストームとの2回目の戦いの後に起きた



「貴方にはチームを離れてもらいます」


『…え?』


瞳子監督の何の迷いもないその言葉
皆は動揺するが、それは当たり前であろう
チームの要、エースストライカーである豪炎寺にイナズマキャラバンを降りろというのだから


「い、今何て言ったでやんすか監督…離れろとかなんとか…」
「ど、どういうことですか…?」
「さ、さぁ…」


すると何かにハッとする豪炎寺
去ろうとする意志表示だろう、何も言わずに後ろを向いた


「ちょ、ちょっと待てよ豪炎寺!どういうことですか監督。豪炎寺に出て行けなんて」
「そうですよ監督!豪炎寺は雷門のエースストライカー、豪炎寺がいなきゃあいつ等には…!」

「…もしかして今日の試合でミスったからか?」
「え?」


唯はフル回転で疲れた頭に思考を巡らせる
確かに、今日の豪炎寺は変だった
らしくもないミスが続いたのは事実

瞳子は理由として“地上最強のチーム”、それに豪炎寺が必要がないだけだ、と切り捨てる

なんで、どうして、唯の頭はもうぐちゃぐちゃだ
決して目を閉じているわけではない。心の余裕がない為か視界が狭まる
嫌、行って欲しくない。心にはその気持ちが渦巻いている






「豪炎寺!」


円堂の声にハッ我に返った唯
元に戻った視界
見れば既に豪炎寺は茂みへと姿を消していた



『豪炎寺君!』

「唯ちゃん!」
「待て!」


唯は豪炎寺を追った
秋がそれを止めようと一歩踏み出した時、円堂の声が響き木野は足を止める
秋だけではない他の部員も口を閉ざし、円堂に視線をやった


「今は……氷星に任せよう」


円堂の視線は二人が駆けて行った方へ
それに吊られて皆、心配そうな顔をしながらも一縷の望みを唯に託していた









頭の壊れた鹿の像の前
階段の途中で止まっている豪炎寺を視界に入れて唯はスピードを上げて走り出す


『豪炎寺君!』


名前を呼んでも彼は振り向かない
自分も階段前で止まり、少し荒れた息を整える


『ホントに…行っちゃうの?』
「……」


反応も返事もなく、唯はぐっと唇をかみ締めた
同時に痛いぐらいに拳をつくり心を落ち着かせようとするが、そんなものでどうにかはならない
声が震えているのが自分でも分かる


『何か理由があるなら言って…………だって、こんな………こんなの、豪炎寺君らしくないよ!!』


握った手が痛い
でも、それ以上に心が痛い


『豪炎寺君!』


短い沈黙
でも唯にはその時間がとても長く感じた
そんな沈黙を裂いたのは、豪炎寺の方だった





「悪い氷星。俺はお前達とは戦えない」





目を見開いても、見えるのはその背中だけで



『どうして…きゃっ!』
「…!」


唯はその意味を問おうと一歩前へ出たとき、先ほどの試合の後遺症か足元がふら付き、階段から足を踏み外してしまった
後ろながらもそれにすぐに反応し、豪炎寺は唯を素早く受け止める


『!』


豪炎寺の腕の中、顔を上げその顔を覗いてみれば確かに唯には見えた

彼の瞳に光る涙が
そして夕日の所為ではなく、少し赤い目が

違う、彼がチームを離れるには何か理由がある
直感でそれが分かってしまう
でなければ、こんな所で涙を流したりはしないだろう

無言で抱き止めていた腕が離れていき、豪炎寺は何かを決心した顔で唯に背を向ける
歩き出す豪炎寺。その背中に向かって唯は少し震えた声で、精一杯叫んだ



『私、ずっと待ってるから!!』



足が止まる
それでも振り返りはしない豪炎寺


『豪炎寺君が帰ってくるまでにもっと強くなって……笑って“お帰り”って言えるようになって…待ってるから!!』


それを聞いた豪炎寺は再び歩いていった
歩いていった方に見えたのはキレイな夕焼け
まるで豪炎寺の胸の内にある熱い心のようで、彼はそれに溶けていくように去っていった





大丈夫。大丈夫。豪炎寺くんは帰ってくる

そう思っていても、心から抜けない虚無感
この思いは、何なんだろう


考えても、答えは出なかった




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