【本】無印夢

□そんな君に送る
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世界大会予選

もうすぐ決勝戦、韓国チームとの対戦だ
練習が終わって皆が一息ついている時間、ポンと背中を叩かれ振り向いた先には少し顔の赤い豪炎寺の姿
唯は練習後だからか、と思っていたが赤い顔の理由はそれだけだったかは定かではない


『どうしたの?』

ドリンク片手に唯が聞き返せば、視線を少し下にやって豪炎寺は言葉を発した


「氷星。悪いが明日の午後空いてるか?」
『へ?』


明日は監督の計らいにより練習は午前で終了
午後は自由らしく、選手一同少し楽しみにしていた時間である
頭で明日の予定はないか探してみたが、同じマネージャーの女子との約束はないし、監督からの呼び出しもなし


『特に何もないけど…明日何かあった?あ、必殺技の特訓とか?』


そう聞けばいや、と首を振る豪炎寺
じゃあ何なんだと思っていればその理由はこうだ

最近練習で家に帰ることも少なく、家にいる妹の夕香に構ってやれないことが心のどこかで突っかかってるらしい
運よく明日の午後は休み、そして明後日は一度家に帰る予定なのでその時に何かプレゼントをしたいと考えている
今まではぬいぐるみ等をプレゼントしてきたが、部屋がぬいぐるみ塗れになりかけているのでそれは却下
なら何をプレゼントしようか、と考えるが生憎自分は男。何を買えばいいのか検討がつかない

そこで一緒に夕香へのプレゼントを選んで欲しいと言う事だった


「折角の休みだ。…面倒なら断ってくれても構わない」
『ううん。そういう事なら、喜んで』

「いいのか?」
『勿論。私でよければ』
「ありがとう」


二人揃ってここを出れば、少なからず茶化してくるヤツがいるだろうと踏んで出発時間を少しずらして外で待ち合わせる事を約束し、その日はそれぞれ部屋に帰っていた

これまた二人揃って緊張して軽く眠れなかったのは各々の秘密だ












『ご、ごめんね!途中で塔子ちゃんとリカちゃんに捕まっちゃって…』
「いや、大丈夫だ」


町の少し大きめの商店街
そこの噴水のある広場で二人は待ち合わせていた
豪炎寺は先に出て待ち合わせ場所に待機していたが、唯は来る途中に二人に何処に行くかをしつこく聞かれたそうだ
流石に男の子と二人で買い物、といえば(主にリカが)離してくれないと思いなんとか巻いてきたので少し息が上がっている


『(…豪炎寺くん…私服だぁ……)』


当たり前のことながら1度意識してしまうといつものユニフォーム姿ではない豪炎寺に釘付けになってしまう
息が上がるのとは違う顔の赤みが増した


「氷星?」
『ほぇ!?』


へ、変な声出た…!
と思っていると大丈夫かと聞かれ慌てて大丈夫と答える
すると、フッと笑って目の前に差し出される手


『(だ、大丈夫!私も私服!)』


と訳のわからない自己暗示を唱えながら唯はその手を取ったのだった


「(…大丈夫だ俺……)」


相手もそんな事を考えていたなんて唯は知るよしもない





--------------



『豪炎寺君は何か買ってあげたい物とかはないの?』


早速、商店街へと足を進ませる二人
何を買うにしてもビジョンが欲しい、と唯は豪炎寺に聞いてみた
すると歩きながらもそうだな…と考える仕草を見せ、パッと閃いたかのように言った


「いつでも持ち歩けるような物がいいな」
『いつでも?』
「あぁ。」


きっとそれはいつでも夕香ちゃんに自分がついている事を主張したいんだろう、と豪炎寺の優しさを汲み取り唯は自然と笑みを零す

『豪炎寺君って優しいね』

素直にそういえば、繋いでいた手に力が入った気がした





唯は可愛い小物が売ってそうなを店を発見し、豪炎寺と少々言葉を交わした後、二人で店へと足を進める
中に入ればそれこそメルヘンなぬいぐるみからオシャレなネックレスなどの売っているお店で、とても男が一人で来れるような雰囲気ではなかった
一緒に来てよかったと思いつつプレゼントを探す

いつでも持ち歩けるような、夕香ちゃんがいつも豪炎寺くんを傍に感じられるような、そんなもの
きょろきょろと辺りを見回せば一つ、唯の目に止まったものがあった


『豪炎寺くん、これは?』


手を引いて呼べば、唯の指差す物を視界に入れる


「ヘアピン…か?」
『うん。ほら、サッカーボールついてるし豪炎寺くんらしいかなって……』


それは小さなサッカーボールの装飾がされたオレンジ色のヘアピン
そのペアピンを手に取り、豪炎寺はジッとそれを見つめている

しばらくしてコレにする、と言った豪炎寺の表情はとても穏やかだった



『夕香ちゃん、幸せ者だね』



釣られて笑えば、豪炎寺は照れ隠しからか視線を外しレジへと歩を進める
手を握っていたので必然的に引っ張られた唯から見えた豪炎寺の耳は少し赤かった気がした


「ありがとうございましたー」


笑顔の店員を背中に店から出てきた二人
すると豪炎寺はパッと手を離し、少し待っててくれと言うと再びその店に入ってっ行った
何か忘れたのだろうかと大人しく待っていれば5分ほどで豪炎寺は戻ってくる
どうしたのか、と聞いてもどうも言葉を濁す豪炎寺に疑問符を浮かべながらも二人は帰路を並んで歩く

もう空は赤い

夕日が沈みかけている中、ぎこちなく手を繋いで雷門を目指す


「今日は助かった、ありがとう」
『ううん。こっちも楽しかったよ!ありがとう豪炎寺くん』


サッカーだけじゃない豪炎寺の一面
唯はそれが知れて妙に嬉しかったのだ

すると急にピタリと足を止める豪炎寺
唯も足を止めれば、夕日の所為か赤く見える表情の豪炎寺はポケットからあるものを取り出し、それを唯の頭にポフリと優しく叩き付けた
慌ててそれを受け取れば、それはさっき夕香のプレゼントを買った店の包装がされた小さな袋


『これは…?』
「その…付き合ってくれた礼だ」

『……開けていい?』


相手が頷いたのを確認し、繋いでいた手を離して袋を開ける
袋に手を入れればまず指に触れた円形の物
ますます何か疑問が湧くそれを取り出してみると、それは夕香に買ったヘアピンの様に、小さなサッカーボールがついたヘアゴム


『あ、もしかしてあの時…』
「…………」


もう一度店に入って行ったのはこれを買ってたからかと理解する
豪炎寺は恥ずかしいのか何も言わない
唯は笑顔で髪を括っているヘアゴムを外して腕に通し、さりげなくいつもツインテールな唯の為かわざわざ2つ入っていたゴムで髪を括りなおす


『ありがとう。使わせてもらうね』


そう言って豪炎寺の手を取る
あぁ、と短く返事をして再び二人は夕日が見守る中歩き出したのだった
二人の顔が夕日の様に真っ赤だった事はお互いに気付く事はなかった







(唯!アンタ豪炎寺とデキとったんか!?)
(え?何のことリカちゃん)
(とぼけんな!今日商店街手ェ繋いで歩いてただろ!)
(塔子ちゃんまで!?あ、あれは夕香ちゃんのプレゼントを買う為に…!)
(じゃあそのゴムはなんやねん!)
(帰ってきたのも二人一緒だったしな)

((やっぱり帰りもバラバラに戻ってきたらよかった…!))



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