【本】無印夢

□思いが空回り
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ガルシルドの陰謀についてのデータが入ったUSBメモリ
それを警察に突き出し、ロニージョ達を救う為に響は進んでその役を買って出た

何かがあった時にと久遠が唯を推し、唯もそれを承諾する事で2人で安全策を取り宿舎を出る
ガルシルドが警察に捕まるのは時間の問題になるであろう事をロニージョ達に伝える為円堂と土方は意気揚々とブラジル代表の練習場へと向かった

だが宿舎で報告を待つ中、悪い知らせは突然にやってきた
携帯電話の着信音が鳴り響き、通話の途中から久遠の表情が険しくなる


「全員病院に向かうぞ!木野は円堂達に知らせた後2人を連れて病院に向かえ!」
「病院って…何があったんですか久遠監督!」

「響さんと氷星が…病院に運ばれた」

「「「「「「え!?」」」」」」









大勢で駆け込んだ病院
独特の匂いが鼻を刺す中案内された病室には響と唯が横たわっていた
響には口元に呼吸器が取りつけられており事の重大さを示している
一方の唯には機械こそなかったものの、体中に巻かれた包帯がとても痛々しい


「唯!!唯!」


いち早く唯のベット横で手を取って名を呼んだのは豪炎寺だった
悲痛な声が病室に響き、傍にいた看護師が止めに入ろうとした時、うっすらと唯の瞳が開く

『豪…炎寺……くん…?』
「…唯!」

豪炎寺は今すぐにでも抱き締めたい衝動に駆られたが、目の前の包帯塗れの体を抱き締める事は心にブレーキがかかった
辺りも安堵の空気に包まれ、よかったと声を漏らす
握られていた手が視線をやれば、相手の力が入ったのが分かる
唯はそれを安心させるかのように弱く力を込めた


「唯……何があったんだ…?」
『響監督の方は、分からないんだけど……警察に行く途中…ガルシルドの仲間に……』



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それは宿舎から出て暫くしてからの事


『…つけられてますね』
「あぁ……作戦通りに行くぞ」
『はい』


ある程度の尾行は予測済みだった為2人は元より対策を練っていた
ごそ、と響がポケットから取り出したUSB
これはデータの入っていないダミーのUSBで、唯が用意した物

本物は別であり、響が所持している
偽者のUSBを背後からつけている人物達から見えるように唯へと手渡し、2人は二手に分かれて走り出した


「二手に分かれたぞ!」
「データは小娘の方だ!」
「お前はそっちを追え!」
「待て!」


もう隠す気も無いのか追いかけてくる追っ手
これで相手は唯がデータを持っていると勘違いするはずだ、と言うのが2人の作戦だった
一瞬背後を見た所、見えた人影は唯のほうが多い
流石に子供と大人のコンパスの差はあるものの、唯も現役でスポーツをしている身である
その差はなかなか縮まらない


『(播ける……!)』


だが何度も曲がり角を曲がり入り組んだ道へと入れば徐々に後ろに見える人影は縮んでいった
次の曲がりで撒こうと思って一度後ろを振り向き距離の確認をした時、唯はある違和感に気付く



『(人が減ってる……?)』



思いつつも十分な距離を持っていたので、撒くぞと思って曲がり角を曲がった瞬間






「今だ!やれ!!!」




キキーッ

『え…!?』


ドンッ














『それで気が付いたら…』
「今に至る、と言う事か………」
『はい…。すいません、監督』


何とかベットから体を起こし事情を説明すれば、その時点で響と分かれた唯には響がここにいる理由は分からないだろう


「まさか試合前にそこまでするとはな…」
「ガルシルドの野郎…!何処まで卑怯な手を使えば気が済むんだ!」


綱海が己の拳で掌を打つ
この怪我では唯が明日の試合に出ることはまず不可能だ

『これでも当たる瞬間バックステップしたからマシになった方だよ。……本当に躊躇無かった』

あのトラックに本気で正面衝突していたら、ヘタしたら命は無かった所
USBは響が持っていたので恐らく無事なことを考えるとこれで済んで良かった方なのかもしれない
そうしている内に円堂達を連れたアキが病院へ到着した為、皆は一度病室から出ることになった
だが豪炎寺だけは久遠に言われて病室に残る
ぴしゃりとドアが閉まり沈黙に包まれる病室
ずっと喋らなかった豪炎寺がゆっくりと口を開いた


「心配、した」
『…うん、ごめんね。心配かけて』
「俺は…また失くすんじゃないかと思った」


一度夕香の事故でサッカーを失った豪炎寺にとって、今回の事故はそれに類似するものがあった
手を離し、包帯の巻かれた唯の体をそっと抱き締める
上手く腕の上がらない唯は黙って抱き締められるだけであったが、微かに震える豪炎寺の腕が彼の気持ちを全て物語っていた




『ごめんね、心配してくれてありがとう』




(想いが空回り)
(どうして俺は無傷でここにいるのか)
(どうしていつも俺の周りが傷付くのか)



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