【本】臆病者の恋物語

□2
1ページ/1ページ


今日の体育の授業は男女合同だった。
なんでも男子を担当している先生が休みだからだとか。

普段とは違いやる気が見える奴もいれば、いつも通り面倒臭いとため息をつく奴もいる。

俺は別にどちらでもない。
体育の授業は嫌いじゃないし女子の視線も気にしなければいいだけだ。


「今日はサッカーのゲームをするぞー!」


先生が高らかに言ったもののそのテンションに乗る者は少ない。
それを気にしていないのか気付いていないのかさっさと進む授業進行。
流石に男子混合だと女子が動けない、と言うことで試合は交互に行われるらしい。








-The first contact-







まずは男子から。
先生によってわけられた俺のチームと霧野のチーム。




ピーッ




鳴ったホイッスルと同時に女子の声が上がった。
瞬間、サイドライン外に並ぶ女子のから貫く様な視線を感じる。


冷たさすら感じるそれには何度も感じた覚えがある。




―嫌いなものはサッカー




言い切った神北に俺はどう映ってるのだろうか。















ピーッ


終了のホイッスル。
互角にボールを奪い合い、混み合った試合の結果は2対1で俺のチームの勝ちだった。


「流石だな神童」
「いや、こっちも危なかった」


男子と女子が交代し、次は女子の試合を男子が観戦する番だ。
霧野と肩を並べてフィールド外へ歩いていると向かいからフィールドに向かう女子達。
その中の一人、冷たい視線の交錯する神北から擦れ違いざまに俺に聞こえる程度の声が聞こえた。





『神童拓人。私はお前とお前のやるサッカーが大嫌いだ』

「!?」





返答の隙もなく歩き去って行った神北。

俺が嫌い。それぐらいはわかる。
理由は知らないが神北の嫌いなサッカー部のキャプテンが俺だからだろう。
だが"俺のやるサッカー"とはなんだ。
普通のサッカーと何が違うって言うんだ。
じゃあ……俺がやっているのは何なんだ。

俺はその背中に声に出さない疑問をぶつけるしかなかった。



ピーッ



試合が始まる。

男子と違い女子のサッカーなんて正直全員が全員ボールを追いかけるだけであってポジションだの何だのなんてあったもんじゃない。
高く黄色い声、一体何にそんな叫ぶ必要があるのか時に疑問に思う。


「神北、動かないな」


霧野が隣でボソリと言った。
霧野は霧野で神北が気になっているらしい。言った通り、神北は最初の立ち位置から一切動いていない様子。
ただただ視線で、ボールを追うだけ。
サッカー嫌いと言うからにはやりたくもないんだろうか。

時計を見ればあと5分で授業は終わる。
そろそろ試合終了かと思った時、女子達ががむしゃらに蹴ったボールが転々と神北の足元へと転がった。

観戦していた男子のギャラリー辺りから"雪女が"とかなんとか聞こえたがボールの行方はわからない。






ボールを止め、一息ついた神北がキッと俺を見る。


そして、次の瞬間にはボールは敵陣のゴールへと突き刺さっていた。


上がる黄色い声なんか耳に入らなかった。
唖然としていた俺は霧野に肩を叩かれハッと意識を取り戻す。


「…ドリブル、見えたか?」
「いや……全く」
「俺もだ」



ホイッスルの音と共に鳴り渡る授業のチャイム。
各々教室に向かう様子の中神北がこっちへ歩いて来る。


「サッカー…嫌いなんじゃなかったのか?」
『あぁ、嫌いだよ』
「じゃあ何で………」


『サッカーはいつも私を裏切るから。そして……』




足を止め、いつもの如く俺に向けられる鋭い目。












『貴方がサッカーを裏切るから』








いつもと同じ筈の冷たい視線はどこか淋しさを帯びていた気がした。





ファーストコンタクト

(言葉に込められた思いに)
(気付くことはできなかった)


●●

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ