【本】キミと奏でる愛の旋律

□第5曲
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「キャプテン!俺、奏の実力が見てみたいです!」



正直、言うのはかなり怖かった。

また俺の妹が以外略みたいな騒動になるのではないかと。
だが予想に反して問題の兄はニヤリ、と訳ありげに笑うだけ。



「見たいか?」

「は、はい!」



ある意味拍子抜けしたものの、奏のサッカーを見たいことに変わりはない。
慌てて返事をすると、拓人は声を張り上げた。



「よし奏!霧野!」

「やるのか?」
『?なにを?』



その声は今までに聞いたことが無いぐらい楽しそうだった。

意気揚々と奏の元へ駆けて行き、何かを話している様子。
霧野や三国、一軍全員をも巻き込んだ後にフィールドに陳を敷く。

ゴール前へと立ち位置を納めた奏にその隣に立つ拓人、それに対しボールを持った南沢を初めとする一軍の布陣が対立する。



「え…?奏とキャプテン2人で…!?」

「あぁ。奏には俺がいれば十分だからな」

「「……」」



どこか誇らしげな拓人に天馬と信助は内心一歩引いた。


『ねぇお兄ちゃん、どうせなら天馬くんと信助くんも入れない?』

「!アレをやるのか?」
『うん!』

「アレ…?」



天馬は奏の意味深な発言に頭を傾げ、拓人はしばらく考える素振りを見せた。

なにをする気だろう。
天馬はワクワクと胸を踊らせる。


「よし、松風!西園!こっちに入れ!」
「「はい!」」

『やった!よろしくね、2人共』


天馬と信助が駆け足でフィールドに立つ。

だがいくらキャプテンである拓人や奏がいると言っても人数、実力的に考えても圧倒的に不利。
ここで2人を起用したことがどう意味を持つのか。


「じゃあ、いきまーす!!」


葵の吹いたホイッスルが鳴った。








「遠慮なくいくぜ」
『はい、本気でどうぞ!』



南沢がターゲットを奏に定めドリブルで駆けて行く。


「松風!西園!上がれ!」
「え!?でも奏が…」

「ボールは大丈夫だ!奏に任せろ!」

「は、はい!」


指示通り攻め込んで来る南沢の横を上がりながら天馬は奏の様子を伺った。

本当に大丈夫なんだろうか

拓人の言葉に抗わずに奏の反対へ走るものの、心中の不安は拭いきれるものではない。




「ソニックショット!!」




奏に向けて、勢いよく南沢の必殺技が炸裂する。
思わず足を止め、完全に後ろを振り向くとボールの向かう先…そこに立っていた奏の纏う雰囲気が変わった。



『ピアニシモ』



緩やかな動きではあったが、拓人のプレイを思い出させるそれは、ボールをあっと言う間に自分のものにしてしまった。
シュートである拓人のフォルテシモとは違い、ボールの球威を弱くし我が手中に納めるといったディフェンス技。

天馬も信助も、ベンチに座るマネージャー達も軽やかに南沢のシュートを止めた奏に目を見開いた。



「どんな必殺技でもその勢いを殺し、自分のものとする。

それが奏の必殺技―"ピアニシモ"だ」



シュートを止めた奏はクスリと笑い、対して南沢は悔しそうに短い舌打ちを打ち鳴らす。


「チッ…相変わらずだな」

『ありがとうございます。』


だが次の瞬間にはボールを持った奏が三国の守るゴールに視線を移し、一瞬で攻守は交代された。


「次はこっちだ!奏っ!」
『うん!お兄ちゃんっ!』


止まった時間が弾かれた様に動き出し、天馬達も慌ててフィールドを駆ける。

パスを受けた拓人は頭に譜面を描いた。






―さぁ、協奏曲の始まりだ






「松風!」



目の前の浜野を抜き、低めの孤を描いて蹴り出されるボール。
描かれた譜面の軌跡に、天馬は目を輝かせた。


―神のタクト


拓人の腕が世話しなく、だが美しく振り動く。
オーケストラの指揮者の如く鮮やかな手の運びに目を奪われる暇もなく立ちはだかるディフェンスに天馬は慌てるも、指揮者に身を任せた演奏者はその指揮に全てを託した。


『こっち!』
「奏!!」


拓人の光の軌跡に導かれたボールが譜面を構成していく。
ボールが奏でていく音。

それを読み取り、それを奏でる演奏者。

一辺の隙さえない。



『信助くん!』
「うん!………っあ!」

「『!』」



不意な不協和音。
信助のスパイクの紐が解け、運悪くそれを踏んでこけてしまう。

好機だと言わんばかりにボールを目指す速水だったが、それは敵わなかった。

回転を駆けていたのか、目の前で方向を変えるボールに速水は反応しきることができなかった。


「あの状態からスピンを!?」
「まさか…これを見越して!?」


音を奏でるボールの行き先は勿論別の演奏者


『お兄ちゃん!』


指揮の、演奏の、全てのミスさえもカバーし、完璧な協奏曲を奏でる。


それがこの血の繋がった兄妹だからこそできる神のタクトの上を行くタクティクス

―パーフェクトフルスコア





「フォルテシモ!!」




その鮮やかに奏でられた協奏曲の前に、三国は一歩も動く事ができなかった。








兄と妹の協奏曲

(凄い…凄いよ奏!)
(流石はキャプテンの妹だね!)
(ありがと、二人とも)
(DFにいるの勿体なかったもん!)

(だから奏はFWにも起用できるんだよ)
(なんたってフォルテシモも撃てるからな)

((えぇ!?))
(えへへ)


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