【本】青春ボイコット

□第12話
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その後も果敢に攻め込むものの得点にはならず。
全てが拓人によって阻まれ、試合は膠着状態だ。


『天馬!』

「通すかっ!」
「あ…!!」


回したパスもカットされ、何度となくそれを繰り返す。
何度阻まれたって、何度奪われたって、立ち向かっていく天馬を見た信助は自分を奮い立たせるように叫びながらボールを持った拓人にスライディングをする。


「信助!」
「僕もあきらめない!」

「うん!」


既に空は赤く染まっていた。
終了の時は近い。

パスをつないでいこうとするがことごとく拓人に取られてしまう。
夏目は痛みだした右腕を人知れず押さえ、歯を食いしばった。
視線を送れば、無言で頷く久遠。

状況判断をし終えた久遠に笑みを見せ、フラリとフィールド横へ避け天馬達を見守る。



彼等はまだ元気だ。





「まだまだ!」
「うん!」




ドリブルしてる天馬へこれまでにない強いアタックが襲う。
今までにない、怒りが見て取れる拓人。
ボールを奪取した拓人の髪がそよ風に髪が揺れ、その表情を隠した。


「諦める……もんかぁあぁ!」

負けじと拓人からボールを奪うも、天馬と信助二人がかりですら拓人に敵うことはなかった。
ゆっくりと二人の方へ歩を進め、夏目はこの雰囲気を肌で感じ取る。
天馬の側へ夏目が歩み寄った時、拓人はボールを保持する足に力を込め、同時に強く拳を握った。



「どれほど頑張ろうと…手に入らないものがある」

「まだ……まだです」



立ち向かおうとする天馬を支える夏目に、拓人はキッと目尻を上げる。
瞳には先程とは違う静かな怒り。
それに気付けない程夏目は鈍感ではないし、無視できる程の無神経さは持ち合わせていなかった。


「水城もだ……お前は…それ程の実力を持ちながら…なぜ手に入らないものを追い駆ける」

『…手に入らないなんて思ってないからですよ』




「諦めなければ…願いがかなうと思っているのか」



息荒く立ち上がる天馬。
側でそれを支える夏目。
2人分の強い眼光が拓人を貫いた。


『「…はい!」』



伏せた目をカッと開き、拓人が叫ぶ。



「お前達は何もわかっていない!」



蹴り出したボールは真っ直ぐ天馬に向かっていき、鳩尾を直撃。
余りの突然さに夏目ですら反応できず、吹き飛ばされた天馬を目で追う。
フィールドにいる全員、ベンチにいる全員、監督ですらも拓人のこの行動に目を見開いた。

だが天馬は立ち上がった。

そしてフラフラになりながらもボールに近づく。



「ボール……取りましたよ今度こそ…抜いて……みせ…」
『天馬っ!!』



倒れかけた天馬を寸前のところで受け止める。
しかし重力も手伝ってか、夏目の細い腕では抱えきれず、グラウンドにへたり込む形となった。


「「天馬ー!」」



ベンチから葵が、フィールド内から信助が天馬へ駆け寄る。
夏目は天馬をフィールドに寝かせて頭を自分の膝の上へ置き、手をとって脈を計った。

ドクリ、ドクリ、と等間隔に脈打つ天馬の鼓動。
よし、と呟いた後葵に冷たいドリンクを持ってくるように指示し、体勢を落ち着けた。
その動作はどこか手慣れていて指示に対しての有無を言わせず、葵がベンチへ駆けて行く。


『お疲れ様』


愛おしそうな表情で、軽く気を失った天馬の頭をそっと撫でる。
心配して天馬を覗き込む信助の横で、葵がドリンクを持ってくるまで夏目は天馬の頭を撫で続けた。





天馬も目を覚まし、結果発表に胸を高鳴らせる。
息を切らしながら久遠の発表を待ち、空気の重みを感じる。

合格者は、

息を呑み続く言葉を待つ。
しばしの沈黙、

そして








「水城夏目。松風天馬。西園信助。以上3名だ」







久遠の横に並ぶ部員は全員目を見開いた。

なぜ、どうしてこの"今のサッカー"を理解していないこの3人の名を呼んだのか。
そんな疑問が浮いては消えまた浮いて。

なぜ自分達が合格じゃないんだと抗議した不合格者3人に、久遠の有無を言わせぬ瞳。
3人は威圧感に押し黙り、背中をむけてグランドを出て行った。

夏目はいまだポカンとしている天馬と信助の頬を遠慮なく引っ張った。



「「いってー!」」
「てことは!」
「夢じゃないんだ!」

「おめでとう!天馬、夏目!信助!」



『「「うん!!」」』



2、3年の並ぶ列の前へ歩いて行き、3人はピシリと背を伸ばした。


「松風天馬です!」
『水城夏目です!』
「西園信助です!」


『「「よろしくおねがいします!」」』



「あぁ、よろしくな!」






反乱はまだ始まらない。
先に待つ戦いへと歩を進めるのは



覚悟のあるもののみ。







悟を決めろさな反乱者達よ

(その先に見据えるは)
(光か闇か)




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