【本】青春ボイコット

□第21話
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まだ天馬たちは練習をしているだろうと予想の断定を定めスパイクなども既に入れてきた鞄を揺らしながら河川敷までの道のりを走る。

霧野は皆行かないだろうと言っていたけどどこか気になっている筈。
逆に気にならないわけがない。

息を上げて拓人の家から河川敷まで道を逆に走っていれば、橋の上から天馬達の様子を伺う2・3年生の姿が見えた。
その光景は酷く滑稽だ。
でもやっぱり嬉しいもので、夏目は思わず口角を上げた。



『何見てるんですか、先輩方』

「な、…水城!」



こっそり後ろから近寄って声をかければ慌てて振り返ったら見つからないよう隠れていた筈なのに倉間に大声で名前を呼ばれる。


『やっぱり気になってるんでしょう?円堂さんが』
「……アイツ等が変な事しないか見に来ただけだ」


下手なウソ。
分かってはいるけど今は騙されといてやろう。


『そうですか』
「なに笑ってんだよ」
『いえ、なんでも』

「水城は…どうする気なんだ?」
『僕は自分のサッカーをするだけです。天馬達みたいに』


三国の問いに夏目は何の迷いもなく答える。

視線を向ける生き生きと練習をする天馬達はとても輝いて見えた。
それを見て何も感じない、とは言わせない。
例え言葉にはしなかったとしても。
心に何か訴えいかけるものがある。

それが天馬達の、そして円堂の不思議な力。



『天馬ー!信助ー!円堂さーん!』

「夏目!?」



夏目は物陰から飛び出してグランドに駆けだした。
その所為か今まさにボールを蹴ろうとしていた天馬が思いっきりそれを空振り転々とボールが転がっていく。


「いってぇ…」


転がったボールの先。
河川敷の階段の下に転がって行ったボール、階段の上には剣城が立っていた。



「剣城…!」
「来たか剣城!お−い!そのボールを取ってくれ」
「なに?」


キッと吊り上った視線に円堂は動じることなく剣城に言葉を投げかける。




「サッカーやろうぜ!」




数々の伝説を生み出してきた円堂の言葉に、舌打ちをかました。
年上だとか監督だとかそんな事関係なしに剣城は円堂に嫌悪を見せる。


「虫唾が走るぜ、あんたの"サッカーやろうぜ"には」


フィフスセクターのシード、そのプライドも拍車をかけて剣城に対して嫌悪感を抱かせる。
だがそんな人間だけではない事を円堂も夏目も気付いていた。
先程自分が出てきた後ろを振り向き、悪戯に笑いながらそこにいるであろう人物達に向けて言った。



『先輩達も、そんな所で見てないでこっちに来たらどうですか?』

「え?」



夏目の声に物陰に隠れていた2、3年が姿を見せる。
存在に気付いていなかった天馬と信助は吃驚していたが、円堂は気付いていたらしい。
グランドにやって来るメンバーの中に南沢、拓人、霧野の姿はない。
円堂は満足げに笑い、ボールを手に取る。



「まずは、みんなのキック力を見せてくれ。1本ずつシュートだ!」



やはりまだ円堂を受け入れきれていないのか自主的な先陣を切るものがいない所、天馬が挙手をすると倉間に止められた。
先輩としての意地か倉間が先陣を切り、部員全員が順番にボールをゴールへと叩き込んでいく。
天馬のボールはゴールを外してしまったがそんなことは気にせずといった様子の円堂に天馬は表情を明るくする。

全員が蹴り終った、と誰もが思った時円堂の口から出た言葉に辺りの空気は凍りついた。


「最後は剣城!残ってるのはお前だけだ!」


そして今しがた剣城の気に障ったと思われるあのフレーズを再び剣城へと投げかけた。








「サッカーやろうぜ!」








遠目でも剣城の表情が険しくなったのがわかる。
剣城がどう出るか、思った夏目に円堂の手が降ってきた。


「夏目。ゴールに立て」
『え?』

「剣城のシュートはお前が見極めろ」


ゆっくりと階段を下りてくる剣城。
階段下に放置されたままだったボールを足で蹴りつつ近付いてくる。
その気迫圧倒された夏目だったが、円堂の大きな手が幾分かの安心感をくれた。



『はい』




部員全員がシュートへの道筋を開け、夏目がゴール前に立つ。



「…どういう事だ」
「俺の指示だ。剣城のシュートは夏目が見極める」



再度剣城から舌打ちが聞こえたが夏目は怯まなかった。
ゴールの前でジッと剣城の放つシュートを待つ。
その時間は数秒のことではあったがとても長い時間に感じる。

1秒1秒を刻み、時計の秒針が12を指した時、剣城が動いた。






「デスソード」






それは剣城なりの挑戦状だったのだろう。
全霊を込めて放たれた剣城のデスソード。

真っ直ぐに夏目に向かっていったボールにある者は目を瞑り、ある者は息を呑んでその行方を見守った。

手を出すか、思った時にはボールは既に夏目の顔面スレスレを通り過ぎてゴールへと突き刺さっていた。
てっきり止めると思っていたのに動くこともなくそのシュートをスルーした夏目。




「凄いシュートだな!やるじゃないか!」




そして円堂に完全に苛立ちがマックスに達したのか剣城は去って行った。


「夏目!大丈夫!?」
『…うん』

「吃驚したー…。ぶつかるかと思ったよ」


夏目に慌てて駆け寄った天馬と信助だったが、夏目は剣城から視線を離せないでいた。
見極めろ、とはこう言う事なのか。

夏目は剣城のシュートに彼を見た気がした。
入部前対峙した時にはには気付かなかった剣城のサッカーに込めた思い。
それがあのシュート1本に込められていた。
自分勝手な考えかもしれない。
それでも夏目は"剣城京介"という1人の人間を見据えた。そんな気がしていた。


今日の練習は終わりだ、と円堂の言葉に結局ここに来た意味を見出せなかった全員が声を上げる。
学校のグランドからではわからない、シュート1本から得たもの。




「本気で勝利を目指したいと思ってる仲間の顔さ。本気のサッカーをやろうと思ってる奴らのな!」




得たもの、失うもの、
好きだからこそ上下するその感情を見抜いてしまう、円堂の人を引き付ける理由。



「皆がここにいる…それが今日の特訓だったんだ!」



明るい天馬の声は全員の耳に届いている。
それが心に突き刺さるのは遠くないと信じて。

夏目は剣城の背中を見つめた。




「明日からは学校のグランドで待ってるぞ!」



きっとこの人となら革命を起こせる。
胸の高鳴りを抑えきれず、夏目はゴールに突き刺さったボールを拾い上げた。








られたボールと命者

(ボールと一緒に)
(気持ちが届けばいいのに)

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