【本】キミと奏でる愛の旋律

□第9曲
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「奏いいか道中誰に声かけられても無視しろよ。特に男。百歩譲って女子はいい。だが男は無視しろ。剣城なら殴っていい」

『?なんで剣城くん?』
「とにもかくにもだ」
『んー……わかった』


ため息が出そうな過保護な会話。
皆様誤解はしないで欲しい。奏は決してどこかへ遠出するわけではない。

ただドリンク作りに水道へ行くだけだ。

剣城の俺の女になれ、つまりは付き合えと言われたことはもう頭にないらしい。
危機感のかけらもない奏が心配なのは多少は理解もできそうなものだが、ここまできたら拓人に向かって思うことは一つ。やり過ぎだシスコン。

まぁ言っても無駄なことは既に理解済みなので誰も言いはしなかったが。




空のボトルを詰め込んだ籠を抱えて本日はマネージャー業の為ジャージの姿の奏は水道への道程を歩いて行った。
拓人は最後まで俺も着いていくと煩かったが流石にそれは周りが止めた。いや、正確には奏に止めさせたと言うのが正しい。

『私は1人でも大丈夫だから……ね?』

上目使い。拓人の妹ビジョン。
勿論拓人がやられない筈もなく承諾することになるのだが。




『なんで剣城くんなんだろ』


先程の拓人の言葉に首をかしげ水道の蛇口を捻る。


「奏が危なっかしいからだろ」
『ひゃっ!?』



流れ出した水で少し手を洗い、いざドリンクを作ろうとした時急に耳元に響く低い声に思わず肩を震わせた。
慌てて後ろを振り向けばその驚き様に笑いを耐え切れなかったのか口元には少し笑みを浮かべている南沢。


『あ、篤志先輩!』

「悪い悪い。あんまりにも奏が無防備なもんだから」
『…心臓に悪いです』


悪びれた様子もなく笑う南沢に奏はむぅ、と頬を膨らませてみる。
ポンとそんな奏の頭を撫でて隣で蛇口を捻った。
よく見れば南沢の膝からは豪快に擦り?けた痕、赤い血が流れている。



『先輩、それ……!』

「あ?ただの掠り傷だっての」
『駄目ですっ!ちゃんと消毒して病院行きましょう!!』

「めんどい」
『駄目です』

「……」
『駄目です』

「何も言ってねぇぞ」
『とりあえず駄目です。私も行きますから帰りに病院行きですからね』



すると意見を曲げないことが分かったのか分かったよとため息をつく。
どうやら言っても無駄だと判断したようだ。

ただ問題はこの事を拓人にどう説明するかで。
当たり前だが2人きりなど普通に却下されるだろう。
奏一人の場合なら泣き落としでいいものの男と2人となると厄介になる。それは何となく検証済である。


「どう神童に説明するんだ?」
『私はマネージャーの仕事を果たすだけですよ?言う必要もないです』

「……ならいいか」



本人が言ってんだし。




「お前、それ全部1人で持ってく気か?」
『え?はい。そうですけど』

「…だからお前は危なっかしいんだっての」

『あぁっ!駄目ですよ!足怪我してるんですから!』
「こんくらいどってことねー」


話をしながら作っていた大量のドリンクの入った籠を南沢が1つ抱えてまだ血の滲む足をグランドに向ける。
慌ててもう1つのかごを抱えて追いかければ一蹴されてしまった。
歩き始めてしまえばもう運ぶしかないのでもう、ともう一度頬を膨らまし隣に場所を収めることにした。


「病院行ってやっから運ばせろ」

『……ならせめてこれ貼ってからにしてください』
「なんだコレ?」


片手で籠を抱え、もう片方の手でポケットから大きな絆創膏を取り出す。
一旦足を止めてそれを受け取りじっとそれを見つめた。

そして奏を見やれば今すぐ貼れと言わんばかりの視線。

別に従う必要もないのだがここで従わなけでばまた面倒なことになりそうだ。
一息ついて絆創膏を貼れば奏がクスリと笑う。

兄の事を置いとき、奏とはこんな調子だからなんとなく逆らえないんだろうなぁと思いつつ、南沢はグランドまでの道をまた歩き出すのだった。






ナルシな君とドリンク作り

(お兄ちゃん、私今日病院寄って帰るね)
(なに!?何かあったのか!?転んだのか!?)
(篤志先輩病院に連れてくの)

(……なにぃいぃぃいぃいいぃ!?)

((だから言ったのに…))


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