【本】青春ボイコット
□第25話
1ページ/2ページ
:松風天馬
:no title
------------
キャプテンがフォルテシモ見せてくれるって!
今すぐ河川敷!!
-end-
突然の天馬からの連絡に、なんとなく予想をしていた夏目はメールの通り即座に河川敷へ走った。
霧野、三国はそんな夏目をどう思っただろうか。
二人だけに語った過去。
自分が女な事は言っていないが、過去について他言しないでくれと釘を刺したもののいつか言わなければならない日が来る気がしていた。
今は、今だけは胸の中に眠るこの気持ちを納めておきたい。
『天馬ー!信助ー!神童さーん!』
手を振る先の彼等に、全てを語ることになるのはいつの日だろう。
「キャプテン!行きますよ!」
「僕、天馬のパス全部拾います!」
元気よくグランドに駆けていく2人の背中を見送り、夏目は反対のゴールを向いて走り出す。
『じゃあ僕、キーパー行きます!』
「「!」」
思わぬ夏目の発言に拓人と円堂は少し目を見開いた。
今までなら決して言わなかったであろう、夏目の心境の変化に円堂は笑みを浮かべる。
他家の子供と言うのは思わぬ所で成長を実感させてくれるものだ。
「えっ、夏目がキーパー!?」
『そんなに期待しないでよ?久しぶりなんだから』
「うわぁ…なんか楽しみだな〜!」
『だから期待しないでってば!』
持参していたボロボロのグローブを嵌め、拳を握り感触を確かめる。
南沢との1件時以来か、と思いながらぎこちないながらもパスを繋いで行く天馬と信助を見やる。
だが拓人は伊達にサッカーについては名門とも唄われる雷門のキャプテンを2年生で勤めていない。
2対1という不利をものともせず容赦なくボールを奪う。
「ボールの動きをよく見ろ!サッカーが好きって事と、サッカーができるってことは違うぞ!」
放たれたホーリーロード決勝戦の時と同じあのシュート。
来る、と思った時には既にボールは天馬の横、そして夏目の横を通りゴールに突き刺さっていた。
動けなかった。その一言に尽きる。
ゴールに突き刺さったボールは転々とフィールドへ転がっていく。
そして改めて拓人の凄さを実感した。
―彼は本物だ。
はしゃいでいる天馬達を横目にこれでいいだろう、と拓人は背を向ける。
最初で最後と言うのが惜しいぐらい、ホントに凄いシュートだった。
夏目が天馬達の横に並び、天馬が足元に転がるボールを拾った。
『「「ありがとうございました!」」』
振り返って頭下げる3人を見やる。
「もし、ホントのサッカーができるようになったら、戻ってきてくれますか」
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも希望を捨てなくて。
自分だってと思う気持ちなんて既に心の奥底に沈めてしまったのに。
そんな天馬に沸き上がる苛立ちを隠せず、拓人は天馬を睨みつけた。
「わかってないな…ホントのサッカーなんて…
もうないんだ!」
勢いよく走り戻ってきて天馬の手からボールをカットする。
慌てて夏目はダッシュでゴールへ駆け、そのまま先程と同じ2対1へと持ち込まれた。
即座に容赦なく天馬達の合間を縫って放たれたシュートに夏目はキッと目を懲らした。
「夏目っ!」
音と共にボールが夏目の手の中に収まった。
ただ、その衝撃は並々ならぬものだ。
グローブ越しに感じる痛みに夏目は顔を歪めたが、その瞳は真っ直ぐに拓人を見つめている。
前の剣城の時だってそうだった。
ボールは本当に自分達の事を1番よく知ってる。
今なら分かる、拓人の思い。
そして夏目は信じた。
『天馬!』
彼ならば、きっと拓人を変えてくれると。
●●