【本】青春ボイコット

□第26話
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何の変哲もない朝。
朝練に備えジャージに着替えている夏目は、つけていたテレビのニュースにふと耳を傾ける。


ホーリーロードが開幕する。


大々的に取り上げられたそのニュースは夏目に楽しみと不安を同時に与えた。
それでも昨日拓人は、天馬は、信助は、決めたんだ。
自分だけ逃げる訳にはいかない。



『…よし!』



気合いを入れる為に少し強めに自分の頬を叩いた。



『アキさんいってきまーす』
「「あら?夏目くん、今日は早いのね」

『はい。ちょっと寄りたいところがあって』


天馬はまだ朝食を食べているか準備をしているかだろう。
そんな時間帯に夏目は木枯し荘を出て行った。

軽いランニングも兼ねているのかその足取りは速い。

春先と言ってもまだ早朝は肌寒いが走っていれば体は少し火照ってきた。
向かい風が気持ちよく体を通り抜ける。
程よく体も温まった頃合、夏目はゆっくりとスピードを落とし息を整えた。
道の右手には大きな屋敷。


『神童さん!』
「水城!?どうしてここに……」


そう。夏目は神童に合いに来たのだ。
大きな屋敷に見合った大きな門から出てきた神童を呼び止める。

神童は霧野と共に登校をしてると思っていたので神童が1人でいることに少々拍子抜けだった。




『突然お邪魔してすいません。家は天馬に聞いたんです。…言いたいことがあったんで』





実は夏目は昨日神童の屋敷に行ったという天馬に誘導尋問でそれとなく場所を聞いていた。
神童は言いたいこと?と首をかしげ目の前にいる後輩をずっと見つめる。

少し上がったままの夏目は一度大きく息を吐き出し、神童の目を見据えまっすぐに言葉を放った。





『僕たちには嘘をついてくれたっていい。でも…自分にだけは正直でいてください』


「!」

『それが言いたかっただけです。じゃあ、失礼します!』




バッと頭を下げて夏目は学校への道を駆けて行った。
結構なスピードで駆けていく後ろ姿に神童は手を伸ばしたがそれが届くことはない。
ただでさえ自分より小さな背中がどんどん小さくなっていく。

伸ばした手は虚しく空を切った。



「自分に……正直に……」




神童が次の試合の指示が負けだと剣城から知らされるその朝の事。











朝練の最中、拓人はずっと腕組んで難しそうな顔をしていた。
それに気付いた茜が難しそうな顔をし、その茜を水鳥が見やれば、ドリンクを取りに来ていた夏目が茜の隣にスッと歩いていく。

「シン様、元気ない」

『大丈夫ですよ、茜先輩』
「夏目くん?」

茜が首を傾げ、夏目を見やる。



『神童さんは強い人だって、茜先輩ならわかってるでしょう?』


「…うん」
『信じて待ちましょうよ。神童さんを』


茜が神童を見ているのならば、きっと茜も知ってる筈。
そして夏目も知っていた。
彼の、神童の本当の強さを。

きっと神童は今朝自分が言ったことを真剣に真剣に受け止めようとしているのだろう。
だからこそ自分はそこに行って声をかけることはできない。

ならば黙って彼が答えを出すのを待っててやろうじゃないか。



パシャ


『…茜先輩?』
「夏目くんも、頑張って」


写真を撮るのは茜なりの応援のし方なのだろうか。
よくカメラを向けられる夏目からすれば恥ずかしいのだがきっと心からのエールなのだろう。


『ありがとうございます』


くすぐったい感覚にへにゃりとはにかめばもう一度シャッター音がベンチに鳴り響いた。





じてつという事

(茜…お前また夏目の写真撮ってんのか?)
(シン様も夏目くんもカッコイイから)


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