【本】青春ボイコット

□第29話
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虎丸の図らいにより夕方にはバイトは終了。

久しぶりに秋さんのご飯が食べれるなぁ、と言う気持ちと気使わせちゃったなぁと言う申し訳ない気持ちを抱えながらトレーニングがてら木枯し壮へ走って行く。
河川敷を通りかかった時、見知った人物2人が目に入り思わず足を止めた。


『天馬に三国さん?』


珍しい組み合わせにきょとんとしつつも声をかける。
2人が振り向けば立っている夏目にきょとんとし、3人が3人顔を合わせて目を見開くと言う変な光景になってしまった。


「夏目!バイト帰り?」
『うん。天馬は練習帰りでしょ。先輩は……おつかい、ですか?』


籠に入ったスーパーの袋に半ば確信を持ちつつも聞いてみれば三国は籠を見やって夏目に向き直った。


「今日は俺が晩飯当番なんだ」

『晩飯当番?』
「先輩がご飯つくるんですか?」

「まぁな。母さんが仕事でを遅くなる日だけだけどな」
「へぇ〜……料理か…凄いなぁ!」
『僕なんか仕込み以外キッチンに立たせてすらくれないのに』
「そうなの?なんか意外かも」


なんでも卒なくこなしてしまいそうなのに、と三国も天馬も内心思っていたが。
きっとそんな事を言っておきながら人並み以上の料理をこなしてしまうのではないかと思っていた。
まぁ後に彼らはその全貌を知る羽目になるのだが今はその事実を知らない。

そして唐突に三国は思わぬ申し出を申し立てた。


「お前ら、俺んち来るか?」
『「へ?」』












パラパラに炒められたチャーハン
形を崩さず味の染みたロールキャベツ
色とりどりのサラダにスープ


『美味しい…!』


漏れた言葉だけでは表せないほどの美味しさは本当に舌鼓を打つもの。


「ホントだ!秋姉と同じくらい美味しいです!」
「秋姉?」

「親戚のお姉さんで、いろいろ面倒見て貰ってるんです」
『僕は恩人の繋がりで秋さんにお世話に』


そこまで言ってピタリと三国が固まった。
何か疑問でもあっただろうかと首を傾げるとやっぱり疑問があったようですぐにその疑問は二人に飛んで来る。


「お前ら、一緒に暮らしてるのか?」

「はい!」
『一緒に暮らしてるって言っても寮ですよ?秋さんも一緒ですし』

「あー…成るほどな」


どうやら言葉が足りず秋にお世話になりつつどういった生活をしているかが伝わっていなかった様だ。


「そういえば松風は親と離れて暮らしてるんだったよな…大変だろ」
「秋姉も夏目もいるから平気です!」
「そうか。そういえば水城の親って……」


言いかけて三国が口をつぐんだ。
しまった、と言わんばかりの表情をする三国に夏目が別にいいですよと声をかける。
三国も天馬も夏目の両親については知っているが、それを今ここで言うのは失言だったと思う。

だが当の本人は言葉の如くまったく気にしてはいない様子だった。


『僕も正直あんまり覚えてないんで気にしないで下さい。それに今はそのおかげで秋さんや天馬に会えたんでよかったと思ってるんです』
「……水城は強いんだな」

『皆僕を強いって言いますけどそうでもないですよ。助けてくれた恩人、秋さん、色んな人に頼ってばっかりで』


繋がりさえ断ち切られていたら今の自分はきっとなかっただろう。
夏目はスープに反射して写るの色付いた自分を見つめる。


『でも、今が楽しくて仕方ないんです』


笑っていられるのは周りが支えてくれたから。
きっと自分一人だったなら生きることさえもできない。
小さな些細な繋がりが見出だしてくれた一つの道はまさしく希望。

だから自分は今幸せで仕方がない。


『僕も先輩みたくしっかりしなくちゃ!』

「おうおう!もっと褒めろ!デザートにプリン出してやる!」
『プリン!?』「ホントですか!?」


重くなった雰囲気を打破するべくガタリと三国が立ち上がれば目を輝かせる後輩二人。
大事なのは過去ではなく今。

夏目は机を囲む仲間たちといるこの今を守る為の力が欲しい、と机の下で握った見えない拳をギュッと握った。







暖かい食卓、冷たい拳

(どうしても求めてしまうのは)
(その暖かさ)


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