【本】キミと奏でる愛の旋律

□第12曲
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『転校生?』


隣のクラス、天馬のクラスに転入生がやってきた。

そんな噂が奏の耳に入ってきたのはその日の昼休みだった。
運悪く午前中は移動教室が重なった為噂を聞く事自体が遅れてしまったのだ。
なんでもサッカー部に入るらしいよ、
そんなことを聞いてしまえば奏の足はまっすぐに隣のクラスに向かう以外になかった。


『天馬くん!』

「奏!丁度よかった、今そっちに行こうとしてたんだ!」


パッといつも天馬、信助、葵の集まる席を見やれば見慣れないブルーグリーンの揺れる髪。
相手も奏に気付いたのかバッチリと茶色の瞳と目が合う。


「狩屋!さっき言ってた…」

『狩屋、くん?』
「あぁ、オレ狩屋マサキ!今話は聞いてたんだ。神童奏チャン?」

『もう知ってるんだ!よろしくねマサキくんっ』


ニコリと人当たりの良い笑みを浮かべると右手を奏に差し出した。
奏も笑顔を返し、その手をきゅっと握る。
この様子だとマサキがサッカー部に入る、と言う噂も本当だろう。
友達、仲間が増える事に思わず笑みは深くなる。


「サッカー部のキャプテンの妹なんだって?」
『そうなの。でも気にしないで接してくれたら嬉しいな』

「わかった。じゃあ奏チャンて呼んでいい?」
『うんっ』



「「「(気にしないのは無理だと思うけどなぁ…)」」」



後で言っておこう。
例の兄貴は病的なシスコンであると。

天馬たちはそう胸に誓い、嬉しそうに会話を交わす二人を目の前に奏の兄を思った。


「そっか…キャプテンの妹か………」

『?マサキくん?』
「狩屋?」


突然腕を組んで何かを考え出したマサキ。
どうかしたのかと首を傾げる奏に続けて首を傾げた天馬、信助、葵。
マサキはう〜ん、と小さな声を上げて奏をちらりと見やる。
いよいよ自分に何かあったかと奏が自分を顧みているとマサキがすいっと奏の顎を指で掬った。




「だったら…若干手が出し辛いよね」



「「「『え?』」」」
「あ、何でもないや」



もしも耳がおかしくなっていなければあらぬ言葉が聞こえた筈。
と言うか、奏にとってはあってはならない台詞である。
だがそんな爆弾を投下したマサキ本人はしれっとした表情で紙パックのジュースを啜っている。

奏は聞いていたのか聞いていなかったのか、言葉に対して反応を示さないでいた。

もしかしたら本当に聞こえていなかったのかもしれない。
もしそうであればそれはそれでいい。というか聞かなかった事にして欲しい。
すると次の授業前を教える予鈴が教室に鳴り響いた。


「奏!ほら、予鈴!早く行った方がいいんじゃない?」
『あ、うんそうだね。皆また放課後!』


ある意味ナイスタイミングだと葵が奏を教室に帰るよう急かす。
小さく手を振って自分のクラスに帰って行った奏。

完全にその姿が見えなくなってからなら天馬たちはバッと視線を一点に集めた。
向けた視線の先…マサキはやはり人当たりの良い笑顔を浮かべて3人に告げた。





「うん。オレ奏チャンに一目惚れしちゃった」








初めましてな君と一目惚れ
(マサキくん…"手を出す"って…何にだろ?)

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