【本】臆病者の恋物語
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『(なんで私はあんなヤツと真面目に話をした…!)』
先程までの自分を殴りたいとすら思った。
サッカーに、神童拓人に抱えていた私の思いはわかりきっていた筈なのに。
まともに向き合った自分が馬鹿だった、と舌打ちをして悪態をついた。
-The past.just.future-
神童拓人に平手打ちをかまして走り去ってきた足に少し疲労が襲う。
足を止めて上がった息を整えながら、今日の私はどうかしてたなと冷静に物事を振り返った。
なぜあの子供達を助けた?
不良共に腹が立ったから?
何もしようとしない神童拓人に腹が立ったから?
―サッカーを侮辱されたから?
出て来た答えの中にそれはないなと頭を振りかぶった。
一筋伝った汗を拭い、それを拭うが何とも言えぬ感覚は拭い去れず胸に残る。
『(私は…、私は…!)』
サッカーなんて、
グッと握った拳は行き場を見付けられず苛立ちは増すばかり。
『(どれもこれも…!神童拓人のせいだ!)』
奴は見事なまでに私を苛立たせてくれる。
最悪な意味で期待を裏切ってくれるから。
気に喰わない。
神童拓人が。
神童拓人のサッカーに対する考えが。
神童拓人のサッカーが。
『(だから"アタシ"がぶっ壊してやるって言ってるだろ)』
…あぁ、私の悪い癖だ。
私じゃない、"アタシ"が顔を覗かせる。
今はお前の出る幕じゃない。失せろ。
自分に言い聞かせるように"アタシ"を中に押し込める。
『(早く素直になれよ。楽になれるぜ?)』
脳内に囁く声に黙れと一喝。
スッと静かに、緊張感のなくなって一息つく。
アタシが出て来たのは久々だ。
久々…と言っても雷門に来る前だけど。
そうしている内に息は整った。
帰ろう。もう一度歩き始めた時足元にボールが転がってくる。
このタイミングで今度はなんだと誰にも聞こえないレベルで舌打ちをして顔を上げると、見たことのある泥だらけの少年。
「すいませーん!ボールが…って神北先輩!!」
『…天馬くん』
彼はなかなかいいタイミングで現れてくれるな、と思う。
ジャージ姿…家に帰ってまた自主練でもしていたのか。
「帰り道ですか?」
『まぁね…でも、天馬くんに会えて運がいいな』
「えっ?」
天馬くんが若干慌てた様に見える。
まぁそうか。私なんかが突然会えてラッキーだなんて思ってたら複雑な感じだろう。
それでも私は天馬くんに…サッカーを愛する少年に会いたかった。
ボロボロになりながら自主練をする天馬くんは先程見たリトルのチームの子達に似ている。
彼はまだ純粋なままだ。
私もこんなままでいられたらどれだけ良かったことか。
まぁ過去を嘆くという行為を嫌悪する私には既に関係のない話。
『天馬くん』
「は、はいっ!」
『私とサッカーをしないか?』
過去、今、未来
(きっと私は)
(天馬くんと過去の自分を重ねている)
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