【本】臆病者の恋物語
□9
1ページ/1ページ
久々に自分の言ったことにびっくりした。
-A false lie. It is the truth or lie?-
―『私とサッカーをしないか?』
自然と口から漏れていた言葉。
サッカーに対する気持ちが揺れているのか。
その自問自答に答えはない。
答えを出すつもりも変わるつもりもない。
「本当ですか!?でも神北先輩って…その、」
『あぁ。サッカーは嫌いだ。ただの私の気まぐれだよ』
きっぱりと天馬くんの質問前に口から飛び出た否定。
そうだ。それが私の心。
"ただの気まぐれ"
それ以上でも以下でもない。
「それでもいいです!神北先輩がサッカーをしてくれるなら!」
天馬くんはボールを抱えて笑う。夕日に反射して眩しい。
2人で鉄橋の下の広い河川に降りる。
黄色いユニフォームを着た天馬くんと制服姿の私が並んでいる様子はなんとも言えないだろう。
「いきますよー!」
『いつでも』
「よーし…」
ボールをドリブルして走り出す。
『(天馬くんの得意技はドリブル…)』
それは練習を覗いていたときからなんとなく分かっていた。
別に神童拓人だけを見にサッカー部に来ていたわけじゃない。
他にも色々私は知っている。
あのやる気のない気だるそうな3年も。
(名前も知っているが既に名前を言うことすら嫌になる)
それに反してやる気満々な目の前の彼と、バンダナ少年も。
(まぁ名前…知ってるけどいいか)
「そよかぜステッ…!」
『アイスグランド』
やる気満々なのはいいことだ。
だが、遠慮はナシ。
『残念。まだまだだな』
ボールは私の足元に。
筋は悪くない。素材もいい。きっと毎日欠かさずボールを蹴っていることだろう。
「…これって……」
『きっとキミなら知っているだろう。イナズマジャパン、吹雪士郎の技だ』
「スゴイ…!」
尻餅をついたまま天馬くんは瞳を輝かせている。
悔しさを感じることも大事だがこうして上を見てくじけないことは強みの1つ。
こうも清々しくバネにしていけるというのはいいことだ。
上を見て腐っていく奴は本当に哀れだと思う。
そして上に押しつぶされる奴。
まだそこに可能性があるのにそれを見出そうと見せず自分を腐らせるだけ。
勿体無い。そして哀れだ。
だから私は今のサッカーが嫌いなんだ。
「神北先輩凄いです!どうしてこんなにサッカーができるのに『それ以上は言うな』
「え…?」
『キミはそのままサッカーを続けてくれればそれでいいんだ』
やっぱり今日の私はどうかしていた。
『今日このことは誰にも言わず、忘れてくれ』
忘れよう。私も今日のことを。
脇に置いていた鞄を抱えて早々に天馬くんに背を向ける。
「絶対嘘です!神北先輩がサッカー嫌いなんて!」
鉄橋上を電車が通り過ぎた音にかこつけて、私は天馬くんの声が聞こえなかったフリをした。
嘘の嘘。それは真(まこと)か嘘か
_