【本】臆病者の恋物語

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珍しく朝早くに目が覚めた##NAM2##は二度寝をすることなく体を起こした。
時計の指す時間から二度寝の余裕はなく、そんなことをするのならもう起きようといった魂胆。

誰もいない家の中で顔を洗い、自分が厳選した紅茶を煎れ、トーストをこんがりと焼き上げる。

用意した朝食を前にテーブルに座り、流れ落ちる沈黙に##NAM2##は慣れたように紅茶をすする。







-In darkness-









『(…久々に疲れたな…)』



ボールを蹴ったのが久々だったからか。
##NAM2##は紅茶の水面に写った自分の顔を見てフッと息をつく。

サッカーチームを覗いているだけのつもりが不良に制裁を加え神童拓人と帰路を歩き松風天馬とサッカーをした。

それだけのことなのに感じる爆発的疲労感。
暖かいトーストにかじり付き咀嚼をして喉に通す。
朝食を終えて皿を洗い、無駄に広い家に毎朝の別れを告げて学校に向かうのだが時間もあるからか今日はそんな気分になれなかった。

誰もいない河川敷で##NAM2##は川の流れを眺めつつ昨日のことを思い出す。



―『最初から諦めるの?』
―「…足掻いてはみたさ。でもダメなんだよ」
―『なにが』


―「所詮…逆らうことなんかできないのさ」



『(腹立たしい。本当に逆らった事もない癖になにが足掻いてみただ)』



早朝の風が梨桜の髪を駆け抜けていく。


『(神童拓人たちは逆らうことの意味をまだ知らない。……天馬くんもまた然りだ)』


年下であるの天馬は純粋故に世間を知らない。
かと言って周りを見渡せるはずである2年生にもなると臆病になってしまう。

ならばどうすればいいというのだ。
その答えは誰からも帰ってこない。
梨桜に答えはわからないが答えを導き出すためのヒントは知っている。

体に刻み込まれたヒントに梨桜は少し寒気を感じた。




『逆らわずして真のサッカーは手に入らず。逆らえば待つのは茨の道』

―それなのに彼らに茨を望んでいるのは私のエゴ。




自然に漏れる嘲笑。
―自分で茨の道を歩くことを拒まれた私にはどうすることもできない。

ならば自分はどうすればいい?

歩く道が閉ざされた今。




『私は……』





空に視線を向けていたら足元に転がってきたボール。
視線を上げた先にいたのは



「神北梨桜、オレらの所に来い」



手を差しのべる、剣城京介。





道が閉ざされたのなら
道を作ればいいじゃないか






暗闇の中で

(差し出された手は)
(善か悪か)

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