【本】キミと奏でる愛の旋律

□第1曲
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「なぁ信助、葵……俺さっき神童先輩を見かけたんだけど…」
「だけど?」
「別に普通じゃない」
「いや…それが…」
「「?」」


「じょ、女子の制服着てたんだ……」


「「…え?」」




嫌な沈黙が3人の空間を包む。
そんな馬鹿なとも言いたげだが天馬がそんな嘘を付くとも思えない。
今日はエイプリルフールでもなくカレンダーは平日を指している中、天馬の放った言葉は相当な威力を持っていた。
互いの引きつった笑顔が逆に痛い。


「そ、それ…ホントに神童先輩だったの?」


葵が弁解を図ろうと聞いてみるもののその言葉に天馬は首を振った。

「後姿だったけど…あれは神童先輩だった……」
「でも神童先輩がそんなことするとは思えないんだけど…」
「だよねぇ……」

更に頭を悩ませる羽目になってしまった3人。
悶々とあらぬ考えを巡らせているといつの間にやら鐘が鳴り響き、考えを中断させて教室移動をせざるを得なくなってしまった。
慌てて教科書を机の中から引き出し、鍵を閉められる前に廊下へ小走りで走る。
次の授業は隣のクラスと合同授業。

中断した問題の答えはそこにあるとも知らずに。






入学したての1年生にとって移動教室とは厄介なものである。
場所の覚えは曖昧な上にそれを理由で遅刻したら先生によっては怒られる、なんとも理不尽な授業だったりする。


「ねぇ天馬教室どこだっけ?」
「え、葵知ってるんじゃないの?!」
「知らないわよ!信助は?」
「僕!?し、知らないよ!」


先程とは違う沈黙が3人の間に流れる。
しまった確認しておくべきだったと思ってももう予鈴は鳴ってしまった。
授業まで残りは5分を切っている3人には教室を確認する術もない。
どうしようと辺りを見回した時、廊下の曲がり角をまがった見慣れた少し色素の薄い髪。

「今の…!」
「神童先輩だ!」

まさに神の助けと言わんばかりに去って行った人物を追う。
曲がったスピードからして歩きだった拓人だと思われる人物を駆け足で追うのは容易だった。



「「「神童先輩!!!」」」



半ば叫びながら角を曲がり目の前にいた人の肩を掴んだ天馬。
だった…が


『へっ!?』
「「……へっ!?」」


天馬が掴んだ肩は予想をしていた広い骨張った肩ではなく小さく柔らかい肩で、間違えるはずもないその制服はまさしく葵が着ているものと同じ女子のもの。
だが色素の薄い髪は長さこそ違うもののまさしく拓人のそれを思わせる同一とも言っていい程酷似している。
いきなり肩を掴まれ思わず振り返った少女の瞳も澄んだ茶色い瞳。
なによりその顔の面影すべてが拓人を思わせるものだった。


「ご、ごめんなさい!人違いでした!!」
『え、あ、別に大丈夫ですよ?それよりも…』



「奏ぇぇぇぇぇぇ!!!」



廊下を粉塵を巻き上げんばかりの勢いで駆けてきたのは天馬達3人が探していた人物。
物凄い血相で走ってきたと思えば拓人は4人の前で急停止する。
そしてその物凄い血相のまま天馬を睨みつけた。

「し、神童先輩!?」
「松風お前…奏に何を…!」
「え…お、俺!?」
「場合によっては…!」

今にも背後から化身が出現しそうなオーラを放ちつつじりじりと距離を詰める。
ここは廊下。逃げ場など勿論ない。
どうやって弁解したものか、いやむしろ何に弁解をするべきなのかと冷や汗を流す中その雰囲気を切り裂いたのは予想外にも声の高い少女の声だった。


『そんなに心配しないで大丈夫だよ!』
「でも奏!お前に何かあったら俺は…!!」


ぽかんとキャプテンとため口をきくおそらく自分たちと同い年であろう少女を見つめる。
奏、と言うのが名前なのだろう。奏と拓人のやり取りを見ているだけではいまいち状況が掴む事ができない。


「本当に何もなかったか!?怪我もしてないか!?」




『だから心配し過ぎだってばお兄ちゃん!』

「「「……お兄ちゃん!?」」」


反応せざるを得ないそのワードに思わず声を上げる。
その声に奏が反応し、パッと3人に振り向くと奏はニッコリと笑顔を向けた。

『自己紹介、遅れてごめんね。
私は神童奏。雷門サッカー部キャプテン神童拓人の妹だよ』




「「「ええぇええぇええぇえ!!!??」」」



その瞬間、授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。



出会った彼女は

(神童!お前授業始まるぞ!)
(あ、蘭丸くん!)
(奏!?……あぁ、そう言う事か…)

(てか、僕たちも授業……!)
((…あー!!))


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