【本】青春ボイコット
□第2話
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瀬戸先輩とサッカー棟付近まで歩いている最中近くのゴミ箱にボールが入ってるのを見た。
いい意味でも悪い意味でも、この胸のざわめく原因。
きっとあのボールにはそれがあるのだと瞬間的に悟った。
憧れた筈の雷門サッカー部に僕は今出会おうとしている。
-選手交代-
10対0
そう電光で示された点数に夏目は唖然とした。
フィールドで悔しそうに顔を歪める雷門サッカー部ファーストチーム。
雷門側のベンチではおろおろしている1人の少年に先生だと思われる風貌の人物が2人うかがえる。
どうやら水鳥は先に行ってしまったようだ。
前方に個性的なリボンが揺れているのが見える。
その傍には青い髪の少女。どうやらベンチにいる学ランの少年を見つめているようだ。
『サッカーは…そんな暗い顔してやるものじゃないのに』
夏目は観客席へと駆け下り、そのスピードのまま手すりを掴むと軽々と観客席からフィールドの芝へと跳んだ。
「松風天馬。予備のユニフォームを着ろ」
「え?」
「お前を試す」
ユニフォームを着て試すという事なんてここでは1つしかなくて。
急な久遠の申し出に天馬は困惑の声を上げる。
それでもお構いなしと言うように立ち上がった久遠が右手を上げようとした時
「ち、ちょっと君!?」
引き止める音無・久遠の言葉で未だ目を丸くする天馬の横をを横切り、夏目は久遠の前へ立ちはだかって、少し頭を下げた。
その様子は緊迫したこの状況からはかけ離れているほど優雅なものだ。
『話は宇都宮虎丸から聞いてます、久遠監督。お目にかかれて光栄です』
宇都宮虎丸、と言う名が出た時音無は一瞬目を見開いたが久遠は至って冷静だった。
「宇都宮……と言う事はお前が水城夏目か。事情は聞いている」
『それはまた光栄なことで』
「予備のユニフォームはそこだ。いけるか」
『はい!』
まるで来ることを予期していたかのように、
そしてこうなることが分かっていたかのように
―それがまるで必然かの様に
「―選手交代!!南沢篤志に代わって松風天馬!速水鶴正に代わって水城夏目!!」
この場にそぐわない天馬の声がベンチ周りに響いた。
「水城夏目……?」
その名に聞き覚えがありそうな、そんな風に夏目の呟いたのは一体誰だったか。
呟いた言葉は歓声にかき消されて聞こえることはなかった。
無茶だ、無謀だ、
どうして交代するのか理由も分からずベンチに戻ってきた2人と入れ替わりに雷門の黄色いユニフォームを身にまとった夏目と天馬がベンチを出ていく。
すれ違いざま南沢は2人を睨みつけたが夏目はそんな事に動じはしない。
そんな事よりと言わんばかりに夏目は共にフィールドに走り出す元気に外にハネた茶髪を見つめる。
彼は彼で夏目の事を気にしていたらしい、バッチリと視線がぶつかる。
「君も…新入生だよね?」
『うん、僕は水城夏目。よろしく松風天馬くん』
「え、どうして俺の名前を?」
『さっき監督が言ってたでしょ。違う?』
「あぁ!ち、違わない!よろしく夏目!」
『こっちこそ、よろしく天馬』
芝の感触を感じながらフィールドへ歩を進めればこちらに近づいてくるキャプテン、神童拓人。
神のタクトとも呼ばれる彼ですらこの状況で力の量れない新人を起用する理由がわからず正直彼自身も困惑していた。
だが今は危機的状況を打破するために導入された2人に駆け寄る。
「あ、あの!さっきは助けて貰ってありがとうございました!よろしくお願いします!」
「あぁ。…で、君は…」
『あ、水城夏目です!天馬と同じサッカー部入部希望。よろしくお願いします神童拓人さん』
夏目はお辞儀をしてスッとポジションへと向かう。
天馬とは違い完全に未知数な実力の夏目。
どうすればいいんだと拓人は一度葉を噛み締め、左腕のキャプテンマークを掴んだ。
『(ここが…雷門中のグランド……)』
自分の割り振られたポジションから天馬の背中を見ていたが、彼も緊張しているらしい。
後ろからでも丸わかりに固まった体に夏目は思わず心の中から声をかけておいた。
するとそれを聞き取ったかのように天馬の深呼吸。
「なんとかなる…なんとかなるさ!」
そして天馬の声が聞こえた時、ピーッと試合再開のホイッスルが鳴った。
未来を託された試合開始
(…行くぞ!)
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