【本】青春ボイコット

□第5話
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「なんで…なんでだよ…!!俺はチームメイトさえも守れない…!何がキャプテンだ!」

「俺はキャプテンなんだ!サッカーを守らなくちゃならないんだ!」




貴方は十分カッコいいよ。

大丈夫、きっとあなたなら強くなれるから。
きっと守ることができるから。





-対面-





『―!』
「!目が覚めたか?」



白い天井、独特の薬品の臭い。
背中に感じる柔らかい感触に、ここが保健室のベットであるというのに気付くのにそう時間はかからなかった。
見上げる様な形で視界に入ったのはこれまた独特なピンク色のツインテールだった。


『霧野さん…?僕…』
「神童も水城もフィフスセクターとの戦いで倒れたんだ。どこか痛むか?」
『フィフスセクター……そうだ…ッ!』
「おい!無茶するなよ!」


起き上がろうとしたら霧野の手によって再びベットに戻される。
その衝撃にわずかに背中と右腕に痛みを感じた。


「気が付いたのか?」
『神童さん…』
「ったく…水城も神童も無茶するなよな」


一瞬顔を歪めた事に気付かれることなく、隣を隔てていたカーテンを開けたのは拓人。

ゆっくりと体を起こせば今度はベットに押し戻されることもなく2人と視線を交えることができた。
どこかその表情は憂いに満ちている。


「大丈夫か?」
『はい。神童さんも大丈夫ですか?』
「あぁ。……水城。お前はどこまで覚えている?」

『……微かに…本当に微かに神童さんが倒れるところまでの記憶があります』
「そうか…水城は化身を出した記憶はあるんだな」
『はい』









剣城のランスロットと夏目のワルキューレのぶつかり合い。
凄まじい攻防が繰り返される中、やはりと言うべきか実力は剣城の方が上で。
弾き出された小さな体は地面に叩き付けられた。

「夏目!」

天馬が駆け寄ったがその意識はすでに薄い。
この状況を打破するためにと天馬が拓人に縋りつくように訴えかけた。



「あきらめないでください…!!!」



現れた拓斗の化身。
止められた試合。
かろうじて守られた雷門サッカー部。
息荒く倒れる拓人。

その記憶を最後に夏目も拓人同様に地に伏せた。













『すいません…僕もまだ化身の扱いに慣れてなくて…』
「水城は化身使いだったのか…」
『はい、一応。でも体力がないのか実力不足なのか…いつもこうなるんです』


こうなる、とはつまり倒れてしまうという事だろう。
拓人も無意識とはいえ化身を出し、倒れた身。
意識的には理解の共感ができる所があった。


「そう言えばお前男にしては軽いもんな」
『え?』
「あぁ、お前運んだの俺だからさ」
『そ、そうですか。すいません』


夏目は正直かなり焦った。

自分が男だと言う事に疑問を持たれてはマズイ。
霧野も女に見える程中世的な容姿をしているから意識をしていなかったが自分を軽々と持ち上げて運んだという辺りはちゃんとした男だ。
実際は女である夏目からしたら十分霧野も男だと言う事も気を付けておこう、と夏目は誰にも知れず心内で誓った。


「そうだ、最初見た時から思ってたんだが…水城、俺とどこかで会ったことないか?」
『僕が…ですか?』


拓人の突然の質問に首をかしげる。
夏目は記憶の糸を手繰り寄せるがその記憶に拓人はおらず。
すいませんと頭を下げれば気にするなと返された。





キーンコーン




「そう言えばもう入学式の終わる時間か」
『あ!忘れてた…!すいません僕教室戻ります!』
「あぁ、くれぐれも無茶はするなよ」
『はい!ありがとうございました!』


ベットの脇に置かれていた鞄を掴み保健室を速足で去って行く夏目。
その背中を見送った2人は顔を見合わせた。



「なぁ霧野……」
「分かってる。……俺も水城に会ったことがある…そんな気がする」



記憶の糸はまだ絡まっている。
そのほつれがなくなり、記憶が1本に繋がる時がやってくる。
ほつれは、自分を保身するために作ったものか、作られたものか
まだその時はやってこなくとも、いつかは





何かを守るという事
(他人を守るのか)
(自分を守るのか)

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