【本】キミと奏でる愛の旋律

□第3曲
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今日、奏は機嫌が良かった。
その理由は少々トラブルはあったものの天馬、信助、そして同い年の女子である葵と友人になれた事にある。

奏の周りには意外にも人が近寄らない。
サッカー部の部長である拓人の妹と言うレッテルのせいか恐れて近寄らなかったり、近付いたとしても影で兄に排除されている。(後者の場合奏の知らない所で行われている)


『天馬くん!信助くん!葵ちゃん!』
「奏!奏もサッカー部行くのよね?」
『うん!』

「うわー楽しみだな!」
「…ある意味怖いけどね……」


思い出すのはあの鬼の様な形相をした拓人の姿。
考えただけでも背筋が凍る。
本当にあの人はその内化身でも出してくるんじゃなかろうか。
そんな思いを秘めたまま4人は並んでサッカー棟へ向かった。











「「こんにちは!!」」


天馬と信助が女子2人より先に一足早く挨拶をすると何人かが返事を返す。
既に部室には監督に呼ばれている拓人を除く2・3年生が揃っており各々でストレッチを始めていた。
葵と奏がひょこりと遅れて顔を出す。

『こんにちはっ』

その声にバッと顔を上げた者が数名。



「「「奏!?」」」



ストレッチを中断して立ち上がり奏に歩み寄る。


『お久しぶりです篤志先輩』
「デカくなったな」
『そりゃあ1年もしたら大きくもなりますよ。三国先輩もご無沙汰してます』
「あぁ。奏も雷門だったんだな」

『お兄ちゃんに誘われたもので』


奏の言葉に部室にいた殆どの者がやっぱりと言わんばかりに大きく頷く。
3年の波に埋もれて顔を出したツインテールが奏の前に立った。

『蘭丸君くん!さっきぶり』
「奏…蘭ちゃんとか蘭丸君とか……朝言い忘れたけど一応先輩だぞ」
『…じゃあ蘭丸先輩?……んー…慣れないなぁ…』
「(俺が神童に目、付けられるから)頑張れ」


なんとなく言葉の裏の意味を読み取ってしまった天馬は冷や汗と苦笑いを同時に漏らした。
その雰囲気の中、この中で唯一神童に目を付けられることのないであろう葵が奏にコソッと耳打ちをする。


「ねぇ奏。霧野先輩はわからないこともないけどどうして3年生の先輩とも仲がいいの?」

『あ、それはね』
「昔神童んちでサッカー部の勉強会したんだ」
「そん時知り合ったのにあれ以来奏が勉強会の部屋に入れられることはなかったからな」
『酷いよね!お兄ちゃんが連れてきたのにっ』
「「「(あぁそう言う事か)」」」


耳打ち程度の声量だったのだがバッチリ聞こえていたらしい。
細かいところまで教えて貰えば天馬たちでも理解ができる。

神童からすれば1度でも先輩たちに合わせてしまったことを後悔していたのだろう。
それ以来顔を合わせさせなかったと言う事はよっぽどその1度で奏が先輩たちと交流を深めたともわかる。



「(……あのシスコンが勉強中ずっと泣いてたことは言わないでやろう)」

「誰がシスコンだ霧野」

「うぉおっ!?し、神童!?」「神童先輩!?」
「俺はシスコンじゃないただ奏が心配なだけだ」

「(それをシスコンって言うんだろって言うか心読まれた!?)」

「読んだぞ」
「返せ俺のプライバシー」






ひと悶着あったものの奏の一言で平和に戻った部室に天馬たち1年はホッとする。
今は新しく入る奏の自己紹介だ。


「と、言う事でサッカー部に入部することになった」
『神童奏です』

「知ってると思うが俺の妹だ。変な目で見るな。手は出すな。異論は一切認めない
「自己紹介ぐらい穏便に済ませろ」


霧野が突っ込んだが最早それは意味を持たない。
真面目な顔で何言ってんだコイツと誰もが思う空気の中、みんな脳内は冷静だった。
その馬鹿本人は自覚を持たないようだが大勢の中に1人猛烈な馬鹿がいると周りはかえって冷静になるものだ。


「よかった!同じ学年のマネージャーがいてくれて!」


「……?あれ、奏ってマネジ志望?」
「「「??」」」


葵の心からの喜びに首をかしげ、思わず声を上げ奏を見たのは2年の浜野。
その言葉の意味を理解し損ね、視線を奏へ向けると予想外な事に奏は首を横に振った。




『私は選手志望ですよ?』




「「「ええぇぇ!?」」」
「だよなー!おかしいと思った」
「ちょちょちょ、待ってください奏が選手志望!?」

『これもまだ言ってなかったっけ』
「聞いてないわよ!!」


目をぱちくりさせる奏に葵はうっと言葉を詰める。
美人ってズルい。そんな顔されればなんでも許したくなってしまう。
怒る気の抜けた所で神童が奏の横に立った。
その表情はどこか自慢げであって少々腹立たしい。


「奏は俺にも引けを取らないれっきとしたサッカープレイヤーだ」


妹贔屓な言葉は正直真に受けたくはないが天馬たちの隣で霧野が本当だと耳打ちをしたおかげでなんとか誤解はされずに済んだ。






『神童奏、ポジションはDFとFW!改めまして、よろしくお願いします』









俺の自慢の妹です


(2人とも、舐めてかかると痛い目見るぞ)
(…でも……)
(霧野お前俺の奏が負けるとでも思っているのか!?)

((これがなぁ……))

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