【本】青春ボイコット

□第7話
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「夏目!遅かったね」
『ごめんごめん!』


そんな廊下でのやり取りも知られぬまま、夏目は部室へとたどり着いた。
程なくして久遠、音無がやってきたものの、2人が部室のドアを開け目に入ったのはいつもの溢れんばかりの部員達…ではなく数人の部員。そして新入生の4人だけ。
音無が驚愕するもの致し方ない。


「水城夏目、そして松風天馬だったな」


拓人が視線を夏目達へと移す。
移り変わった視線に背筋を伸ばし、2人は声を張り上げて返事を返した。


「今朝はありがとう。せっかく頑張ってくれたが、これが今の雷門サッカー部だ」

「それでもいいです!俺サッカー部に入ります!」
『天馬に同じく、入部希望です!』
「僕もサッカー部に入ります!お願いします!」


誘発されるように入部の意思を示す3人。
邪気のない、まさに無邪気とも言うべき表情で高らかに言った。
夏目、天馬は面識のあるものの信助に面識のない拓人は少し背の小さい信助を見やる。


「お前も1年だな?」
「はい!西園信助といいます!」


こんなサッカー部でも入りたいと言っている奴がいる。
そう嬉しくもう反面、やりきれない気持ちが心を駆け抜ける。

渦巻く正の感情と負の感情。

汚い事を何も知らず、こうも真っ直ぐにサッカーに打ち込むことがこうも苛立たしいと思うのは自分が歪んでいるからなのか。
それとも歪んだのは自分じゃなく周りだったのか。







「お前たちはもう来るな」








-信頼-







拓人の言葉に否を唱えたのは音無だった。

顧問の台詞に口出しはできず拓人もこれ以上の言葉は踏みとどまる。
話を変える様に音無は今朝の試合は特別で、本当は入部テストがあると言う話を始める。
その話に肩を落とした天馬と信助だったが夏目は対象にケロリとした様子。


「いきなりテストか…」
「夏目、なんか余裕そうな顔してるなぁ」
『いやぁ…心配しても仕方ないかなって』

「久遠監督、今日はこんな状態だし…どうしましょうか?」


こんな状態、それが指し示すことは沢山ある。
フィフスセクターの登場、部員の事、そしてこれからの事。
久遠も影のある部員たちを見渡した。



「そうだな……明日放課後、ここにきてくれ」
「はい」
「それと…」
「「『?』」」


「水城、少し話がある」
『…はい』



1人留まることを余儀なくされた夏目に、3人は別れを告げ帰路着いた。

部室にいるのは夏目、久遠、音無、ファーストランクの9人、そして剣城のみ。
緊迫した空気が流れる。
どこからか生まれるこの空気の中にいるのは息苦しい所がある。



「今のうちにハッキリさせておきたい。水城、お前はフィフスセクターについてどこまで知っている?」
「「「「!!」」」」



久遠からの急な質問に全員が目を見開く。
剣城ですらも伏せていた目を開け夏目を見据え、返答を待った。


『そうですね…この場にいる全員が知りうることは大体知ってます』

「…なんでそれを松風達に言わない?」
「水城ならあいつに事実を教えることもできるだろう」


夏目に抗議の声を上げた拓人と霧野。
同じことを考えていたのが数名、耳を傾けた。
剣城は何も言わず、壁に背中を預けたまま。
講義の内容はこの場にいる誰もが思ったことだ。

今朝拓人はフィフスセクターの事を拓人に説明しようとした時に説明を代わりに買って出たのが夏目だった。
それ程までに夏目はフィフスセクターを、現在のサッカーを知っている。
その筈なのに天馬たちにそれを教えない。



『彼が自分から知るべきだと思います。それに……』


拓人を見据え、全員を見据え、夏目は顔を上げる。




『彼らがこの現実を知った時にサッカーへの本当の気持ちが分かるはずです』



だから僕は言いません。
彼らの本気が見たいから。



「そんな綺麗事だけで生きてける程、世の中甘くねーぜ」
『それでも僕は信じてます』

「…そーかよ」



食って掛かる南沢、そして最後に久遠を見据えると、久遠はゆっくりとそれに頷いた。





信頼故の無責任

(大丈夫)
(天馬達なら絶対に)

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