【本】キミと奏でる愛の旋律

□第4曲
1ページ/1ページ



真新しいユニフォームに袖を通しよし、と意気込む。
同じ雷門のユニフォームであっても随分印象は変わるもの。


「わぁー!奏、ユニフォーム似合う!」
『えへへ、ありがとう葵ちゃん』


男と違い着替えに時間のかかる女子組はゆったりとグランドに歩き出す。
女子同士の会話はとてもまったりしている。
主な話はサッカーの事だったり先輩たちの事だったりと些細な事。
それでも早い事にあっと言う間にサッカー棟外のグランドへ着いてしまった。


「もうやってる!」
『だね!センパーイ!お兄ちゃーん!』


グランドで既に練習を始めていた皆に階段の上から手を振って声を上げる。
するとどうしたものか、ピタリと神童が止まりパスボールを美しくスルーした。
遠目でもそれが見受けられ葵と奏が立ち止まった時。

目にも止まらぬ勢いで神童が駆け出した。



「奏ぇぇぇぇぇ!お前そんな腕やら足やらを露出するなぁぁ!!」

『え?え?』
「そんなカッコで歩いてたら周りの男に見られるだろ!」


血相を変えて、その表現が正にしっくりくる。
練習中でも試合でも見た事のないスピードで階段を駆け上り奏の両肩をガシリと掴んだ。
致し方ないが隣に立っていた葵は一歩後退。(むしろ引いてる)

部員たちは何事かと思ったがユニフォーム姿の奏を見て納得。
確かに半袖半ズボンは少し出る所が多い。
男でも気にしなくはないが奏がそれを着ているのを見ると少なからず神童の気持ちも分からなくもない。

でもそれはそういう目で奏を見た時に限る。
普通に思えばただの半袖半ズボン。隠すべきところはちゃんと隠れている。


「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」
「何言ってるんですか三国さん!!こんな美味しそうな太もも見ない男がいるわけないじゃないですか!
「神童気持ち悪ぃぞ」
「男として兄として普通の事を言ったまでです」


間髪入れずに南沢が言うも効果音を付けるなら「キリッ」とでも言おうか、逆に清々しく返されてしまった。


「ふぅ…こんな事もあろうかと長袖とスパッツを買っておいてよかった…」
「え…なにコイツキモい」

「ユニフォームを着る時は中にこれを着ろ。着ないのは俺の前だけにしろ。あ、あと写真撮っていいか」

「先輩。ポケットにケータイあるんですけどケーサツ呼んでいいっすか」
「気持ちはわかるが落ち着け倉間」


奏に対してのみ果てしなくゴーイングマイウェイを貫く神童。
グランドで皆が好き勝手言っているにも関わらず神童は奏に詰め寄っている。
気迫に圧倒され言われるがままの奏だったが、ここでとうとう口を開いた。
その瞳は少し潤んでいる。


『着なきゃ…だめ?』


ズキューン



何かが打ち抜かれる音。
奏の上目使い!
効果は抜群だ!
神童は倒れ……


「ま、待て奏……でもな…」


…なかった!



『私…お兄ちゃんと一緒のユニフォーム、ずっと着たかったの!』


パーン

バタッ


神 童 は 倒 れ た





「おーい誰か保健室運んでやれ」
「鼻血で汚れるから嫌です」




目の保養?いいえ目の毒です

(奏……やっぱり長袖とスパッツ着といてあげて)
(そんなに私太もも太いかなぁ…)
(いや、そうじゃなくって)
(ちょっと着てくるね)

((……あの子天然で鈍感だわ……))


_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ