【本】無印夢

□星空の歌
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唯はバスでの移動中酔わないようにずっと寝ている為、いくら日中ハードな練習をしようと夜はなかなか眠れない日が多い
その日も例の如く眠れなかったらしく、キャラバンの上に登ってそこから星空を見上げるのは唯の軽い日課

時に下、キャラバンの中から誰かが大きな寝返りをうって寝転がっている椅子から転げ落ちる音が聞こえたりするが、疲れきった体は起きる事はないと知っているので驚きはしない


周りに誰もいないことを一度確認して、スッと目を閉じ自分の好きなある歌を紡いだ






『守りたい 守られてる

会えない時もずっと

一秒ずつ私達は強くなれるから』





唯は歌を歌うのが好きだった
喉の奥から通る歌声はとても澄んでいる
少し入り組んだ山道に、まるで子守唄のように歌が響き渡った


歌がフェードアウトしていき、もう一度目を開く



「…綺麗な歌だな」
『ふぇっ!?』



キャラバンの上へ登る梯子の方から不意に聞こえた声
歌を聞かれていた恥ずかしさと振り向いた先にいた人物に思わず顔に熱が集まる


「悪い。驚かせる気はなかった」


梯子を登って唯の隣に腰を下ろしたのは豪炎寺だった
なかなか眠れなくてボーッとしてたら外から唯と思われる歌声が聞こえて、終わるまで聴き入っていたらしい
さっき歌っていた歌が何と言う歌だったのか、そんな受け答えをした後、ぽつりと声を漏らす



『この歌ね、私にそっくりかな…って、思って』
「氷星に?」
『うん』


守りたい、守られてる
会えない時もずっと、一秒ずつ私達は強くなれるから


『豪炎寺くんがいなくなって、凄く寂しくて…何かあったなら私が助けになりたいと思ってるのに、会えない時も私はずっと守られててばっかり…
それでも豪炎寺くんが戻ってきて最強のチームになる為に私も、豪炎寺くんも少しずつかもしれないけど強くなっていって…、そんな歌』


豪炎寺の顔を見ながら言うのは照れ臭かったが、唯は目を逸らさなかった
この言葉がまっすぐ彼に伝わればいいな、と思ったから


「…俺も……いつの間にか守られてたよ」
『え?』

「チームを離れてみて分かった
そうやって強くなっていくチームを見て…どこかで俺は安心していたんだ
またアソコに立ちたいって言う気持ちが強くなって…俺も強くなろうとした
それに…何より……


お前の隣でサッカーがしたいと思えたから
氷星がいたから、今俺はここにいる
氷星の存在に俺は守られてたんだなって思ったよ」



言ってからその言葉の恥ずかしさに気付いたのか、思わず顔を逸らす
唯も同様に顔を真っ赤にして顔を逸らした



「これで終わり」そう思っていた遠いあの日

今は言える羽ばたける始まりだったと

君の温もりが広がる掌と胸の隙間

君と行く先探してる心繋いで




『ありがとう。私…豪炎寺くんを守れて嬉しい』


熱はまだ治まらないままだったが、唯は豪炎寺の肩に寄り掛かった
守り守られ、そんな関係が嬉しい
小さく俺もだ、と聞いたのを最後に唯は意識を手放した



「…氷星?」



どうやら寝てしまった様で聞こえてきたのは小さな寝息
図らずともフッと笑みが零れる
いつもなら恥ずかしくてあまり直視しない唯の顔を見ていると、意外と睫毛が長いだとか気付く
これ以上至近距離で唯を見ていると我慢がきかなくなりそうだ
起こすのも可哀相だし、運ぶにしても自分の右半身に唯の重心は寄ってしまっているので自分が体を退ければ唯は確実に頭を強打するであろう
豪炎寺は持ってきていた毛布を自分と唯の肩にかけ、目を閉じる


密かに、唯の左手と豪炎寺の右手は繋がれていた















「大変やー!!!皆起きぃ!!」
「なんだよリカに塔子…どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたも唯がいなくなったんだよ!!もしかしたらエイリアの奴らに…」
「大変だ!おい聞いたか豪炎………じ…?」
「?どうした円堂」
「豪炎寺もいねぇぞ…!!?」

「「「「…はぁぁぁ!?」」」」

「まさか二人で駆け落ち!?なんちゅーラブハプニングや!!」
「んなこと言ってる場合か!!!とにかく探せ!!」



数分後、キャラバンの上で並んで寝ていた二人が発見され全員にちゃかされ怒られたのは言うまでもない





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song by BOA
まもりたい〜White Wishes〜
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