【本】無印夢

□バーベキューに肝試し!
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夕飯後


サッカーをするには辺りは暗く、寝るにはまだまだ早い、そんな時間帯だ
何かないかと円堂聞いてみれば木暮が肝試しはどうかと提案
その言葉にビクリと反応を示す壁山、そして唯の二人
“雷門七不思議”なるものがこの学校には存在するらしく、風丸が自分の記憶を呼び起こす


「確か誰も居ない音楽室からピアノが聞こえて来たりとか…人体模型が動くとか…夜トイレの鏡を覗くと恐ろしいモノが見えるとか…保健室のベッドで誰かが泣いてる声がする…とか」


無意識のうちに隣に居た豪炎寺のジャージの裾を握った
もうその仕草を見るだけで怖いのか、ということが伺える


「やろうぜ!肝試し!!」


豪炎寺が唯の方を見れば、唯は真っ青な顔で今にも倒れそうだった
そんな所で変なS心が働いたのか、気付かぬ振りをしておく豪炎寺

結局、吹雪・木暮・壁山の3人、立向居・綱海の2人、円堂・風丸の2人
そして唯・豪炎寺・鬼道の3人で各々七不思議の場所へ向かう事に

終わったら体育館に集合だと決めて、懐中電灯を片手にそれぞれが目的地へと歩を進める
全員が暗闇に包まれた校舎へと消えていった






豪炎寺と鬼道の間を歩く唯
言わずもがな、怖いからである
3人が向かうのは保健室、“保健室のベッドで誰かが泣いている声がする”だ
唯は恐怖からか何も喋らない、むしろ喋れない
唯はさておき2人は恐怖なんて微塵も感じていない


「豪炎寺」
「ん?」
「お前に1度聞いてみたかったんだが…」
「なんだ改まって?」
「妹とどんな会話をすればいいと思う」


なんとなく会話を耳に入れていた唯の気が抜けた
随分可愛い内容で思わず笑いそうになったぐらいだ
そこから2人の妹に対する会話が始まる
いつもはこんな話、共通の話題はーなどと言った内容
普段の2人からは考えられない風景


『豪炎寺くんも鬼道くんも妹思いなんだね』


そんな会話を聞いていれば何となくさっきまで感じていた怖さが軽くなった気がする


『夕香ちゃんも春菜ちゃんもこんな素敵なお兄ちゃんを持てて幸せものだと思うよ』


心からそう思う
自分の為にこんな話をしてくれる兄はそうそういないだろう、と妹の立場からすれば思うのであろう


「そういえば、夕香はよく氷星の話をするな」
『え?私?』
「同じ女だから憧れを抱いたりするんだろう。氷星の話をするときは生き生きしている」
「なるほど…その氷星やサッカー部の話なら共通の話題が持てる…ということか」
『それはそうだね…春菜ちゃんもサッカー好きだし』


そんな話を続けていれば、もう目的地の保健室の目の前だった
忘れていた恐怖が甦り暗くてわからないがサッと顔を青ざめさせる唯


『つ、着いちゃった…ね』
「まぁ何も無いだろう」


扉の前で固まっていたら何の躊躇もなく鬼道が音を立ててドアを開ける
豪炎寺と鬼道が中に入り、廊下に1人残されるのが嫌だった唯は慌てて中へ入った
懐中電灯で薄暗い保健室を照らしてまわる
どうやら何も無いようだ


『何も聞こえない…?』
「当たり前だ」
『で、でも…もしかしたらってことがあるかもしれないし……』

ガタッ

『ひあぁっ!』


後ろの薬の並べられた棚から音がして思わず目の前にあった豪炎寺の背中に飛びつく
豪炎寺は反射的に顔を赤くしたが暗闇では見えなかった
飛び付いた本人はガタガタと震えており背中からジャージを握った手を離す気配がない


「氷星。ただ風で揺れただけだ」
『………本当…?』


勿論幽霊なんかではない
でも唯はなかなか離れない


「氷星、一旦離れてくれ」


珍しい豪炎寺からの拒否
唯は迷惑をかけていたんだ、と謝罪の言葉と一緒に慌てて離れる
するとパシ、と音がして気付けば唯の右手は豪炎寺の左手と繋がれていた


「これで…大丈夫か?」


鬼道にはちゃんと顔を見ていなくとも、そこにいる豪炎寺が顔を赤くしている事はすぐに分かった


『……うん』


そしてこれまた顔を赤くする唯の顔も、鬼道にはお見通しだった






(優しいその手を繋いで戻ろう)














『ただいまー……』
「あ、お帰りなさい氷星さん!豪炎寺さん!鬼道さん!」


体育館のドアを開ければそこには円堂・風丸以外のペアは既に帰って来ていた
帰って来た唯たちを見るなり吹雪に


「あれ?なんで手繋いでるの?」


とズバッと指摘されてしまい自分が怖いから繋いでもらっていたんだと素直に告げる
それを聞いた吹雪は唯には聞こえないよう豪炎寺に耳元で良かったね、と呟いておいた
体育館の真ん中で円を描くように座り、木暮や壁山が何故こんなにおびえてるのか、のような話をし円堂たちの帰りを待つことおよそ5分
案外早く2人は帰って来た


「あ、円堂さん!風丸さん!」
「お!皆戻ってきてるな!」


人の円の中に入りとりあえず目に入った物凄い怯えている木暮と壁山がどうしたのかといえば吹雪が焦ったように色々あったんだと告げる
そして話は肝試しへと逆戻り


「で、風丸。七不思議の最後は?」
「6つの場所を回った後、明かりを消して人数を数えるとおかしなことが起こる…だったはず」
「そっか…んじゃ誰か、明かり頼む!」


円堂がそう言った時、唯の隣に座っていた豪炎寺が動いた


「俺がやろう。手、離すぞ」
『あ、うん……』


離れた手が少し寂しかったが仕方ない
電気を消しに行った豪炎寺を目で追う

パチ

一気に闇に包まれる体育館
壁山と木暮が声をあげて悲鳴をあげ、唯は言葉にならない悲鳴をあげる
早く隣に豪炎寺が戻ってきて欲しいと心から思っていた


「真っ暗だ。全然見えないな……さ!数えるぞー!」

まずは円堂
「1!!」

電気を消しに行った為少し離れた場所から豪炎寺
「2」


「3」

鬼道
「4」

吹雪
「5」

綱海
「6」

木暮
「7」

壁山
「8」

立向居
「9」

風丸
「10」



本来ならココで終わる……筈だった








「11」








それは居るはずもない人数の声



「…11!?へ、確か俺達って…10人しかいないはずじゃ…」

「1人増えてる…?」

「まさか…幽霊!?」





「「「「「「っわぁあぁあぁぁぁあぁ!!!!」」」」」」


体育館に居たほぼ全員が体育館から弾かれたように出口へ走っていく
体育館に残ったのは豪炎寺、鬼道、そして唯の3人だ
豪炎寺と鬼道はてっきり唯も走って出て行くものと思っていたのでここに残ったのは以外だと思っていた
鬼道は唯もあの声の正体に気付いているのだと思い、それをまずあの声の張本人にたずねてみる事に


「豪炎寺…お前だな」
「みんな物足りなさそうにしていたからな」


豪炎寺が2人の元に歩み寄り、さっきの様に唯の隣に腰を下ろす
するとその瞬間、唯が体当たりをするかのような勢いで豪炎寺に抱きついた




「なっ…!…氷星?」

『いいい、今の声、ホントのホントに、豪炎寺くん……?ゆ、幽霊じゃない…?』



唯の声は若干掠れている
どうやら本当に怖かったらしく、あの声が豪炎寺だとは気付いていなかったらしい
いつもの冷静な判断が出来る状態であれば聞き分けもついただろうが、それをさせないのがこの肝試しの雰囲気だ


「驚かせて悪かった。さっきの声は俺だ」


頭を撫でて必死に落ち着かせようとするもこれまたなかなか唯は離れない
できるだけ雰囲気を変えて落ち着かせてやろうと思い鬼道は言った


「いい加減あいつ等にタネ明かしした方がいいだろう」
「…じゃあ呼びにいくか。氷星」
『……』
「…氷星?」


豪炎寺が立ち上がろうとしても、唯は立ち上がろうとしない
どうしたのかもう一度名前を呼んでみれば、唯は若干涙目で赤い顔をゆっくり上げて小さな声で立てない理由を呟いた


『腰……抜けちゃった………』


本当に立てないのだろう、立とうと頑張っても完全に豪炎寺の方へ倒れ込むような形へ戻ってしまう
鬼道はキラリとゴーグルを輝かせて出口へと足を運んだ


「じゃあ俺1人で呼んでこよう。豪炎寺、氷星の世話は頼んだぞ」
『え、鬼道く……!』
「鬼道…!」


バタン


広い体育館に腰を抜かした唯とそれを支える豪炎寺の2人きり
そのシチュエーションに2人並んで顔を赤くする
とにかく沈黙を避けたいという事で豪炎寺はもう一度結いに謝罪をいれることにした


「その…さっきは悪かった」
『う、ううん…豪炎寺くんも盛り上げようとしてくれたわけだし…それに……』
「それに?」


『こうやってまた豪炎寺くんが手を握ってくれれば安心できるから』



豪炎寺の手に自分の手を重ねる
2人は恥ずかしそうにしながらも、柔らかく微笑むのであった







(それにしても……皆帰ってくるの遅い…ね)
(もう20分は経っているが…一体何をしてるんだ)


(綱海さん!押さないで下さい…!)
(我慢しろ…!今いい所なんだからよ!)
(全員で覗き見とは…流石に怒られても俺は知らんぞ)
(えぇ、呼びに来たの鬼道さんじゃないっスか!)
(静かにしないとバレるぞ壁山)


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