【本】無印夢

□君の秘密
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「失礼します!お疲れ様でしたっ!」


日本代表イナズマジャパンの合宿練習中

練習の終盤になると必ずと言っていいほど早めに帰宅する一人の少年、宇都宮虎丸
選手としてもマネージャーとしても彼のことが気になっていた唯は、密かに彼のことを調べようと監督である久遠に理由を告げ(駄目だと思ったけど意外とあっさり許してくれたなぁ…)練習を抜け出していた


『(遅刻してまで家から通う理由は何かあるはず…)』


前方を走る虎丸の視界に入らず、見失わないように後ろから追いかける
やはり凡人よりかは足の速い虎丸をそのように追いかけるのは困難の様に思えるが、唯はそれを顔色変えずにやってのけた
そしてついた先にあったのは



「『虎ノ屋……?』」




重なるはずのない声が重なり互いにその姿を確認すれば、そこに立っていたのは見知った顔


『あ、秋ちゃん!春奈ちゃん!』
「唯ちゃん!」
「先輩!!」


秋に春菜だった
どうやら、二人も虎丸のことを調べて追ってきたそうだ
(二人は何度も見失いかけたらしい)
円堂くんに報告してくるね、と走っていく秋を背中に、唯と春菜はもう一度視線を虎ノ屋に戻した
春奈の片手には手帳が握られている

ここに行き着いたはいいが何故虎丸がこんな所に…考えているとキリはない
看板のような所に隠れていた二人だったが、唯がスッと立ち上がる


『私、行ってみる』
「え、えぇ!?キャプテン達を待った方がいいんじゃ…」
『でもちょっとでも事情を先に知っといたほうが虎丸くんにも円堂くん達にも説明はしやすくなると思うんだけど……』


そういえば春菜は顎に手を沿え考える仕草を見せた
それなら私はキャプテンたちが来るのを待ってます、と返事が返ってくれば、唯は虎ノ屋へ向かう

入り口のドアが妙に重く感じる
1度深呼吸してから、唯はそのドアを開けた


『すいませーん…!』
「いらっしゃいませー!!」

『……え?』


元気よく聞こえてきた声は間違いない、自分達の探している彼の声だった


『虎丸くん…?』
「氷星さん!!?」


キッチンであろう奥から出てきた虎丸は隠しきれない動揺が見て取れる
が、唯もこの状況を頭で理解しきれておらず、わたわたと二人慌てていた
はたから見れば滑稽である


「どうしたの虎丸?お客様?」
「母さん!寝てなきゃ駄目じゃないか!」


もう一人、奥から顔を出したのは虎丸の言葉から伺うに虎丸の母親

『き、急に押しかけてすいません!私虎丸くんのチームメイトの氷星唯といいます!』

慌てて頭を下げれば柔らかい声で虎丸の母から少し驚いた声が漏れた


「じゃあ貴方が豪炎寺さんと同じで虎丸の大好きな氷星さんなのね」
「母さん!」


豪炎寺と同じと言う事は選手として、ということなのは分かっているが思わず虎丸と唯の顔が赤くなる
秘密を勝手に暴露された恥ずかしさに、選手としての好意を凭れていた恥ずかしさ、どっちもどっちだ

「あら、違うの?虎丸言ってたじゃない氷星さんが好きだって」
「だから!氷星さんはイナズマジャパン唯一の女の人ですっごくサッカー上手くて憧れって意味で…!!それに氷星さんは」


ガラッ


「豪炎寺さんの彼女だよ!!」
「「「へ?!」」」


ナイスタイミング、またの名をバッドタイミング
秋が連れて来た円堂に途中であった冬花、合流した春菜に、現在名前を出された豪炎寺
虎丸の軽い爆弾発言の瞬間に5人がドアを開けてしまった

ピシリと一部の人間が石化する


「せっ先輩そうだったんですかーっ!!!?一体いつから!?」
『ちちち違うよ春菜ちゃん!虎丸君!私が…そんな、豪炎寺くんのかか、か、彼女だなんて…!!誤解!誤解!!』

「え!?違ったんですか?」
『違うよ!』


いち早く石化から開放された春菜
慌てて石化を開放し赤面しつつ全力で弁解にまわる唯
もとから石化などしていない虎丸

ぎゃーぎゃーと交わされる会話を豪炎寺は軽く石化したまま右から左へ受け流していた
その耳が赤かった事なんて微笑ましくその光景を見ていた秋しか知らない








誤解も解け、やっと本題に入る
この食堂“虎ノ屋”は病気がちな母親に代わって虎丸が切り盛りする店だった
そしてその仕込みや出前などがある為、虎丸はいつも練習を早退していたのだという

今は一時出前に行ってこの場にいない虎丸が、どれほど苦労をしていたのかを知り驚く一同
お弁当屋の乃々美も手伝ってくれている、と聞いたもののその苦労は計り知れない
出前から帰って来ては母親の心配、円堂は耐え切れなくなって椅子から立ち上がった


「虎丸!」
「は、はいっ!」
「何でこんな大事なことを黙っていたんだ!」


置かれていた出前箱を持って出前の手伝いを始めようとした円堂
豪炎寺もフッと笑い

「やるか」
『うん!』

そういって全員で虎ノ屋の手伝いが始まった



「ハンバーグ2丁!」
「虎丸くーん!ミックスフライ定食一丁!」
「ミックス一丁ねー!」


食堂も人で賑わってきて、出前の注文も絶えない
円堂、豪炎寺、唯の3人は出前にまわり、残りは食堂へ


「氷星さん!出前お願いします!」
『わかったーっ!』


住所の書かれたメモと一緒に置かれた出前箱
メモを見て大体の場所を頭で把握し、出前箱を手に取った

『んっ……!』

だがその箱は思っていたよりも重く両手で持つのがやっと
少しふら付いた足取りで外へ出ようと思った瞬間、背後から手が伸びてきてフッと腕が軽くなった


「そっちは重いだろ。氷星はこっちを頼む」
『あ、ありがとう…』


そこには今自分が持っていた出前箱ともう一つ違う出前箱を持った豪炎寺
自分は両手でしか持てなかったのに片手で軽々とそれを持つのを見て男と女の差を感じ、ちょっと意識してしまう


「そっち何丁目だ?」
『3丁目だよ。そっちは?』
「こっちも3丁目だ」


住所の書いたメモを豪炎寺と交換し、届け先が近所だと分かれば二人揃って店を出た
そんな2人が会話する様はどちらも妙に意識している事がうかがえてもどかしい



(あの二人お似合いね〜)
(乃々美姉ちゃんもそう思う?)
(可愛いっていうかなんていうか…見てるこっちが恥ずかしくなるような…)
(ここでこれなら合宿所ではもっとじれったいんじゃないかな)
(甘酸っぱい青春ね!)



ここにもそんな2人を応援する人物が産まれたとか



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