【本】青春ボイコット

□第11話
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「これより、入部テストを始める」

久遠が順に名前を呼んでいき、それぞれが声を上げて返事をする。
だが、その声からは一部覇気が感じられず夏目は眉を潜めた。



「その前に」



久遠が夏目に顔を向ける。
夏目はなんとなく予想してたので動揺はしなかった。



「水城。お前はテスト免除の指示が出ている」


「「えぇっ!?」」


「フィフスセクター直々にな」
「「「!」」」



辺りがざわつき、複数の視線が夏目を突き刺すが全く驚いたそぶりも慌てたそぶりも見せない。


「それでもやるのか?」
『はい。…落ちるつもりはありません』
「…わかった」

「監督!」


夏目が入部テストを受けるということはフィフスセクターの指示に背くということ。
拓人が口を出すも久遠は何も言わなかった。

実践形式の試験。
それによって監督が合否を決めると言う方法に文句を付けるものはおらず、フィールドに足を踏み入れる。
グラウンドの階段には剣城が座っており、様子を伺っていた。
その剣城を視界に入れ、夏目の口からは珍しく舌打ちが飛び出した。
昼間のことが気に喰わないらしい。



「夏目?」
『あ、なんでもないよ!』

「ならいいけど…でもさ、ホントに良かったの?折角入部テスト免除でサッカー部に入部できたのに」
『いいのいいの。それに、僕だってちゃんと天馬達と合格したいしね!』

「そっか!なら頑張って皆で合格しよう!」
「おー!」



そんなやる気満々な3人の様子を伺い、拓人は他の3人に目を向けたが明らかにそこからやる気は感じられない。
サッカー部の名声を目当てにやって来たというのがバレバレだ。

新入生とファーストチームの2、3年がフィールドに向き合う。




―テスト開始


1年からのキックオフで始まり、のろのろとパスを繋いでいくが、互いの息が合わずパスはまわらない。
しまいには文句をつけ合う始末。
醜く、罪をなすりつけ合う姿は正直目も当てられたものではなかった。



『(こんなレベルか)』



少し感情が表に出てたのか、天馬が夏目の横から元気よく走り出した。


「大丈夫!これからこれから!」


だが、言った本人も緊張してたのだろう。
簡単なトラップミス、それは信助にも言えたことだがやる気のない者と違い、真面目に取り組むが故の緊張でガチガチなのが目に見える。
緊張なんて可愛いもんだと夏目は天馬と信助の元へ走った。
夏目の顔からは緊張の様子は全くと言っていい程に見て取れない。



『天馬!信助!落ち着いて、あれだけ練習したんだから大丈夫』
「う、うん」



天馬にボールを返し、再びのリスタート。
夏目の言葉に肩の荷が下りたのか、天馬は得意のドリブルで浜野を抜いた。
よし、と夏目は天馬に並ぶようにフィールドを上がって行ったが、天馬の前には大きな壁が立ちはだかる。


「神童キャプテン!」


底知れぬ威圧感。
空気を感じ取ったのか夏目は少し身じろぎ、様子を伺う。





「合格するなんて…本気で言っているのか?」





冗談なんかじゃ言えない。
わかっているのに聞かなければ気が済まないと言うような、拓人の物言い。

―やっぱり似てるんだ。
―キャプテンは…昔の僕に

だからこそわかる。
今の彼はは闇に沈む身にとって……



「はい!俺、入りたいんです。雷門でサッカーがしたいんです」
「ここにサッカーは……












…ない!」

『天馬!』



眩し過ぎる。




天馬は勢いをつけてぶつかってきた拓人に弾き飛ばされ、ボールを奪われた。




「やっぱり、キャプテンはすごいですね。簡単に抜けそうにないや。でも、諦めません!」
「できるものならやってみろ!」

「はい!」



言葉通り何度も果敢に攻め立てる天馬だったが、実力の差は歴然。
拓人一人に何度となく行く手を阻まれ、倒され、ボールを奪われる。
息を上げている自分と汗一つかく様子もない拓人を目の前に、信助は弱音を吐くが天馬の言葉と行動に顔を上げた。



「俺は諦めない!諦めなければ…なんとかなる!」



再びドリブルを仕掛ける天馬に、拓人が立ちはだかる。



「夏目!」

「!」



来ると待ち構えていた矢先のパス。
しまった、と横を見ればスルリと自分の横を滑り抜ける夏目の残像が見える。

拓人は動けなかった。



『ナイスパス天馬!』



2、3年の壁などもろともしない。
ボールをトラップし、美しさすら感じる夏目のドリブルに敵味方など関係なくそれに魅入る。

足だけではない。全身でサッカーをしている、体中のありとあらゆる部分が夏目にとってはサッカーに必要なものと言っても過言ではなかった。



「こい!!」

『いきます!』



ゴール前で構える三国。
流石は名門雷門サッカー部のファーストチームと言った所か、その存在感は計り知れない。




『グラディウスアーチ!!』


「バーニングキャッチ!!」




ぶつかり合う技と技の狭間のボールが激しく心を揺らす。
押し勝つか負けるか、固唾を呑んでボールの行方を追った。

夏目は、この瞬間が堪らなく好きだった。



「残念だったな」



三国の手に収まったボールを見て、夏目は笑う。
胸の高鳴りが押さえられなくてそれが表に出て来た様に。



「惜っしい!」
「ドンマイ夏目!まだまだこれから!」

『うん!!』



ゴールとはならなかったが、心からスッキリした表情を見せる夏目。
夏目は三国を見て確信した。

この人達にはちゃんとサッカーにハートを持っている。

満足げに笑った夏目は、天馬へと返球されたボールを追うべく、またフィールドを走り出す。



「なぜ……」



拓人が呟いた言葉は誰の耳にも入ることはなく、反響した自分のみを締め付けた。









っ直ぐな線に映る
(お前の眼には何が見えてるんだ)


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