【本】青春ボイコット

□第14話
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授業終了のチャイムと共にドアを勢いよく駆けて行く天馬達。
遅れてそれを追う葵に、それに速度を合わせる夏目。


「だから待ってってば!」


葵が呼んでも止まる気配どころか速度を落とす事もしない。
まったく、と夏目は息を付きたくなる。
この年頃の男の子ってきっと女の子に優しくしたりするのが恥ずかしいのかな、なんて考察をしつつ。

いつの間にか2組の距離が開いたままサッカー棟へ到着。
部室ドア開き勢いのまま姿勢を正した天馬と信助に葵と夏目。


「まだ誰も来てないみたいだね」


信助が言うや否ややって来る先輩達に慌てて道を譲った。
各々が鞄を下ろしてロッカーを開け始めた時遅れて拓人がやって来る。



『「「「キャプテン!よろしくおねがいします!!」」」』



1年生全員が再び頭下げれば短く返される返事。
今日は新入生の自己紹介から始めるらしく、久遠と音無が来るのを待つ。
そして部室のドアが開いた方向を見るとそこには予想外の人物が。


「よーっす夏目!」
『あれ、瀬戸先輩?』
「水鳥でいいよ。久しぶり」
『どうしてサッカー部に?』


青いリボンを揺らしながらやって来た彼女に聞けば


「細かい事は気にすんなっ!」


と水鳥らしい返答が返ってくる。
まぁ水鳥先輩だしいっか、と思わせてしまうのが水鳥の人徳と言えば人徳なのだろう。

時間を置いて久遠、音無、そして剣城が部室へと集まる。
そして夏目達を始めとする新入部員が並んで整列した。



「じゃあ、新入部員に自己紹介してもらおうか」



拓人がそう言うと、声を上げたのは予想だにしない人物だった。


「よし!まずはお前からだ!」


勢いよく水鳥が天馬の背中を叩く。
なぜこの場に水鳥がいるのか。
この場にいる全員が思っただろうがその理由はわからないまま。


「行け天馬!ビシッと決めろ!」

「貴方は…?」
「あたし?」


音無の問いに水鳥が返す。
むしろ今逆に音無は誰に聞いたのかと思うが勿論その問いは水鳥に向けられたものだ。


「マネージャー志望かしら?」
「あ?あたしは面倒なことはやんねーよ。まぁ…なんつーの?コイツらの私設応援団って感じ?」


そう言って夏目と天馬の頭にと手を乗せた。



「私設応援団?」

「でもあたしのことは気にしなくていいから。ったく…天馬がキマんねーなら夏目、ホレ」
『え?ぼ、僕ですか?』
「そーだよ」


とばっちりで今度は夏目が前に押し出される。
ずらりと立ち並ぶ先輩達の幾多の瞳に少し息を呑む。



うわぁ、顔引きつりそう



『えっと…水城夏目です!ポジションはミッドフィルダー。よろしくお願いします!』



声を張り上げ、頭を下げる。
それだけの動作なのにこれだけ緊張するのはこういう時独特の雰囲気だと思う。

しどろもどろな天馬、キッチリとこなす信助。
こんな事1つでも性格が出るもので面白いなと夏目はちょっと笑った。


「次」


拓人の言葉に一同の視線は剣城へ。
だがその声にも微動だにしない剣城に不穏な空気が流れる。



「オイ次だ!聞こえないのかよ!」


「…剣城京介」




簡潔に名前だけを述べ、その態度に不満の顔を見せ何か言いたげではあったが何かを言う事はなかった。
言ったって無駄だって事が理解できないほど頭は悪くない。


「じゃあ次はマネージャーね!」


空気を一転させようと音無が声を上げる。
順当に葵、茜、そして水鳥が自己紹介を終えた。

次に拓人から先輩の紹介、顧問の音無、久遠の紹介。
改めてこのサッカー部に入部したことを思い知らされる。
何事もその場にいる時は気付かないが改めて思い返すと恐れ多いと思う事がよくある。



「これって…ファーストチームのユニフォーム…!?」



渡されたユニフォームは現在拓人たちの着ているものと同じデザインのもの。
本来はセカンドからだがこの前の一件で辞めてしまう者が多かった為ファーストからなのだとか。

でも気は抜くなよ、と釘を刺されたがやはり憧れていた分喜びは大きい。
ユニフォームを広げて笑う天馬を見ていると同い年だが妙な母性が湧いてくる。
夏目はそんな天馬を見て妙に心を和ませていた。

一方信助はユニフォームを広げて少し難しそうな表情。


「僕にはちょっと大きくないかな……」


確かに、信助が広げているサイズから考えて少し大きいと思われる。


『信助ユニフォームちょっと貸して。僕がサイズ合わせてあげるよ。キャプテン、時間いいですか?』
「あぁ。好きにしろ」

『ありがとうございます』


そう言うと自分の手荷物からソーイングセットを取り出す夏目。
信助の手からサイズの大きいユニフォームを受け取ると慣れた手つきで信助の肩にユニフォームを合わせサイズを合わせていく。

天馬は早々にユニフォームに着替え、自分が憧れのユニフォームを着れた事に感動していた。
その隣で手際よくユニフォームを裾上げしていき、信助がそれをじっと見ている。
ひょっこりとその後ろには葵も立っていた。


「夏目…なんか手慣れてるね」
『そう?別に普通じゃない?』
「えぇ!僕絶対そんなのできないよ!ねぇ天馬」
「俺も無理だな〜…」
「不器用な天馬には絶対できないわね」
「う、煩い葵!」

『……できた!』


プツリと長かった糸を切りもう一度ユニフォームを広げれば信助が声を上げる。


『はい信助。これでサイズ大丈夫?』
「うん!わぁ〜凄いね夏目!ピッタリだよ!」


自分の体の前に翳せばそのサイズはピッタリの長さ。
意外な特技発覚とでも言おう夏目の手際の良さに驚きを隠せない。


「出来たなら着替えてすぐに練習だ」
「「『はい!!』」」


様子を見ていた拓人から叱咤が飛ぶ。
それに大きな声で返事をし、3人は慌てて準備に入るのだった。








肉なれユニフォーム

(退部者が多くてこのユニフォームが着れる、なんて)
(皮肉だよね)



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