【本】青春ボイコット

□第16話
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「「「えー!!」」」
「?」


部室に響く複数の叫び声。
それもその筈、部室へやって来た天馬の顔は傷だらけだったからだ。
その隣で夏目は小さくため息をついている。

「なにその顔!?傷だらけじゃない!」

葵が傷に触れば天馬の体が強張った。


「大丈夫、大丈夫だから!秋姉と夏目がが大げさに張っただけで大丈夫なんだって」
『大げさってねぇ天馬…大事に越したことはないよ』


水鳥が笑いながら歩み寄り頬に貼られていた大きな絆創膏をびりっと大きな音を立てて剥がす。

「いって!」
「うんうん。大丈夫そうだな」

頬を押さえながら涙目な天馬を見て満足げに笑うと天馬は小さく返事を返した。


「また河川敷で練習してたんでしょ」
「だって、今日の試合先輩達の足引っ張っちゃいけないって思ったら居ても立ってもいられなくってさ」
「それでそんなになるまで練習を!?やっぱり頑張り屋だよ天馬って!」

「そ、そうでもないよ!夏目も特訓してたしね」
「「夏目も!?」」


『あー…うん。まぁ、一応』


バッと突然集まった視線に一瞬驚いたものの夏目はケロッとしている。
そこで疲れを悟られないようにするが夏目の凄い所と言えよう。





「まったく…試合で倒れても知らないわよ」





そう葵に言われた矢先。
栄都学園へ向かうバスの中で特訓の疲れと寝不足、その上バスの心地よい揺れが眠気を誘う。
駄目だ駄目だと思ってもゆっくり下がってくる瞼。

すると突然パシャ、と軽い音を立てて目の前で何かが光った。


「うたた寝水城くん…」

『…山菜先輩?』
「茜でいい」


何かと思えばそれは隣に座る茜のカメラのシャッター音だった。
恥ずかしい所を撮られてしまったと思いつつも笑う茜を前に何かを言う事も出来ず。


『茜先輩、僕なんか撮っても何もなりませんよ?』
「水城くん、シン様と同じくらいカッコいいから……」
『ぼ、僕がですか?』


自分を指さしながら聞けば茜がコクリと頷く。
人に好かれて悪い気はしないがなんだか騙しているみたいで申し訳ない。
しかも茜が敬愛している(と思われる)拓人と同等とはどこか恐れ多い。


「試合、頑張ってね」
『勿論ですよ』


吊られて夏目も笑えば、もう一度パシャリとシャッター音が鳴った。
















栄都学園に到着して、宛がわれた部屋で準備を始める。
知らされていたスタメン、夏目は後半のみに出場だったのでのんびりと体を解していた。
どうして夏目が後半しか出ないのか、正直を言えば実力から考えれば夏目は前半も出るべきだったがそれを阻むのはどうしようもない壁。

黒い布で覆われた右腕に隠されたこの傷がそれをさせない。

時間が来て、フィールドに立つ皆をベンチから見つめる。




『…眩しいなぁ』




呟いた言葉は誰にも聞かれることはなかった。






前半開始
上手くパスを繋げて南沢が上がって行くものの、栄都学園のシーフアイによってボールは奪われてしまう。

だが雷門もやられるだけではない。

攻め攻められ、互角の戦いを繰り広げている。
いや、夏目にとってはそれは語弊であろう。



互角の戦いを繰り広げている…様に見えた



どこか違和感を感じる。

浜野からのパスを拓人がトラップミス。



『まさか…!』



バッと剣城を見れば剣城はニヤリと笑う。
栄都側にボール渡ったのを見た時、同時に胸のざわめきを感じた時その予感は現実のものとなった。

激しくぶつかり合う必殺技。
正直、三国なら簡単に取れる程度のシュートだったがほんの一瞬三国が目を瞑った。
ゴールに突き刺さるボール。
電光掲示板に光る"1"という得点。



「先輩の必殺技が破られた!?」




天馬の驚愕の声がベンチまで聞こえる。

でも、一番辛いのはきっと三国。
こんな馬鹿げた点を取らせなきゃいけない…キーパー。

夏目は人知れず三国を思い拳を強く握った。







まった合の天命

(始まりの悪夢)
(目覚めて思うは何なのか)

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