【本】青春ボイコット

□第18話
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嫌なら辞めちまえと言う倉間の言葉の通りなのかもしれない。

でもそういう彼も辞めずにここに立っている。
そこから推察できるのはサッカーが好きでここにいると言う事。
思っていることは皆同じなのに違ってしまう行動。


互角の展開を繰り広げる試合に、夏目も天馬も足を動かさずその展開を見ている。
いや、夏目は天馬を見ていると言った方が正しい。


3−0
その試合結果からしてあと1点は確実に取られなければならない。
現在ボールは栄都学園の保持している。
来るか、夏目は思ったが止めはしなかった。

そして無情にもボールはゴールへ突き刺さってしまう。
拓人にあぁは言ったもののやはり見ている側も辛い。



「間違ってる…」

『え?』
「やっぱり、間違ってるよ…!」


天馬の言葉に夏目が笑った。






『天馬ならそう言ってくれると思った』






キックオフの笛が鳴った。
直後ボールを取られたのか取らせたのか、栄都学園にボールが渡り押され気味になる。


「間違ってる…!こんなのサッカーじゃない…!サッカーが泣いてるよ!!」


己を奮い立たせるような叫び声と共にボールを奪いに行く天馬。
夏目は様子を見て後ろを追い、共にボールを追った。
執念で奪い取ったボール。
たった1つのこのボールを追うというただそれだけの事なのに本気になれる。


「キャプテン!」


拓人に向かって蹴られたボールはコントロールミスで逸れてしまった。



「諦めるもんか…!」
「やめろ!この試合には勝敗指示が出てる!負けることが決まってるんだ」

『嫌です!僕は…僕たちはサッカーから逃げません!!』


ハッキリと言い放った夏目は本領を発揮し、ボールをカットする。
そしてボールを奪っては拓人へ。
天馬も同じく体を張って止めたボールを全て拓人へとパスを出し続けた。



「キャプテン!」
『キャプテン!』



呼ばれるその名にはそれぞれの思いが込められていた。
ことごとくパスをわざと敵に渡し、自分を保身しようとした拓人。
もうやめてくれ、思ってたって2人はパスを出し続ける。

時間も残りわずか。


「夏目!」


天馬がボールを夏目に渡す。
2人はアイコンタクトで互いに頷く。

時間的にも、きっとこれが最後であろう。








『「キャプテン!」』







ドクン





何かが呼び覚まされた感覚だった。


拓人から放たれたシュートは栄都学園のゴールへと突き刺さり、瞬間に鳴り響くホイッスル。
必殺技すらも凌駕するそのシュートを放った拓人は、周りの人間よりも格段に唖然としている。


「神童!」
「どうして…シュートなんか…!」


自分で自分が分からない。
さっきのあれはホントに俺はがやったのか。
我ながら疑問すら感じてしまう行動に拓人は混乱していた。


「あいつが…あいつ等のボールが俺を責めたてるんだ」
「攻める?」




「あいつのボールは言っていた……”サッカーに向き合え”と」




「だからお前はシュートを打ってしまったというのか」




無心で放ってしまったシュート。
それが何を意味しているのか、なんてことをしたんだと後に襲い来るは後悔。


『…取った……』


たかが1点。結果は3対1で負け。
複雑な心境でスコアを見つめる夏目。
これで良かったのか、答えは誰にもわからないけれども間違っているとは思わない。

何かをするわけでもなく、フィールドに立ち尽くす。
整列の挨拶のになって動かした体からドッと汗が噴き出てきてやはりこの結果をどこか拒絶していた自分がいた事に今更になって気付かされた。



「ちょっと自分が上手いからって調子に乗るなよ」



隣に並んでいた倉間に囁かれた言葉、直後聞こえた舌打ちに噴き出た汗が冷えていく。








―僕はまた逆らったんだ。フィフスセクターに。






やると決めた事なのにどうにもスッキリしない。
この心をどうすればいいのかもわからないまま、一緒に帰ろうと言う天馬達の誘いを断り虎ノ屋へと全力疾走した。








さぶられる

(そしてドクリと脈打つ鼓動)

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