【本】キミと奏でる愛の旋律

□第11曲
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奏はピピ、と携帯電話を操作しながら少し口端を上げる。
アドレス帳の中に並ぶ名前に嬉しさを隠せないでいた。


「なーにニヤニヤしてんだよ」
『あ!倉間先輩!』


ぽかりと痛くもない拳で叩かれて振り返ればそこには倉間が立っていた。
携帯片手に笑う奏は言うまでもなく可愛いのであるが多少言いたいことも出てくる。
なぜそんな機嫌がいいのか、聞いてみれば奏は更に笑を深めた。



『だってアドレスに友達の名前がいっぱいあるんですもん!』
「…?奏、友達そんないなかったっけか……?」

『いるには沢山いたんですけど……なぜか皆メルアドの交換してくれなくて……』



シュンとうなだれた奏の様子に倉間の胸がぐらりと揺れる。
奏の性格はどこにも非の打ち所はない。
なのにメルアドを交換しないとはどういうことなのか。

倉間は考えたが一瞬でその答えは導き出された。



「(…あぁあのシスコンか)」



誰も正解と言える者はいないがその真相は良く言えば妹思い、悪く言えばシスコンである神童拓人の後ろ盾で所為と言って間違いないだろう。
奏がこんな性格の奴じゃなかったら今頃捕まってるだろと倉間は脳内でため息をついたが、まぁ目の前にいる奏はそんなこと微塵も気にしてなさそうなのでよしとしよう。
きっと奏とお近づきになりたいと思っていた同級生は数多くいる筈。
それなのに自分ののアドレス帳には名前が少ない、と奏は言う。
どれだけの男が犠牲になってきたのか……倉間は考えようとして思考をやめた。考え出したらきりがない。


『こんなに沢山アドレスが登録できるんですね!』


そう言って笑う奏。
倉間はあんな兄を持ってしまった奏に軽く同情したくなった。
当たり前のことができないとはこうも見ていて悲しくなるものか。


『昨日は京介くんともアドレスを交換したんです!』
「きょうすけ……って………剣城?」

『はい!』

「つか、昨日奏南沢さんと病院行ってなかったか?」
『へぇっ!?あ、その!』
「…ま、聞かなかったことにしてやるよ」


嘘つけない素直な所が可愛いんだよなぁなんて絶対に口には出さないが(と言うか出したら噂のシスコンになにされるかわかんねぇ)
あわあわと慌てる奏の頭を撫でて倉間は廊下を歩き出す。
すると突然ギュッと奏が倉間の学ランの裾を掴んだ。


『倉間先輩!先輩もメアド教えてくださいっ!』


その表情は若干の上目遣いからの悩殺アングル。
冷静を保っていた熱がどんどんと上がっていく。


「そ、れなら神童に聞けっ!ほら、行くぞ!」


自分もアドレス交換したいなんで自分の口から言うのが照れくさくなって倉間は学ランの裾を握っている奏の手を引いて歩きだした。
なにより手を引くことによって自分の赤くなった顔を見られないで済む。

なんて言うのは口実で。

身長は変わらないのに奏の手はなんでこんな小さいのかなんて特有の思考を巡らせながら部室までそのままでいた。
部室に入る前に速やかに離された手を見つめ、奏は家に帰ったら倉間のメアドを兄に聞こうと思っていたのだった。






素直じゃない君とメルアド

(…お兄ちゃん…先輩のメアド教えてくれませんでした…)
(し、しょうがねぇから今交換してやるよ!だから泣きそうな顔すんな!)

(ホントですか…っ!?)









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どうでもいい補足

絶対に拓人は教えないってわかってて兄に聞けっていった倉間君。
実は後にメアドを聞きにわざわざ奏が自分の所に来るのを見越していたりします。


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