【本】キミと奏でる愛の旋律

□第0,5曲
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二年生某教室


「なぁ霧野…」
「なんだよ神童」


神妙な面持ちで腕を組む拓人に蘭丸は軽いため息をつく。
普通なら片方が真剣ならばもう片方もその雰囲気に巻き込まれそうなものの蘭丸の反応は正反対な呆れ、その理由は真剣な拓人自身にあった。

「奏のことなんだが…」

予想通りに出てきた一人の名前。
今まで最低学年だった自分達にとっての初めてな大事な後輩…と言えばそれまでだが拓人にとってその一人は彼を困惑させるには十分な威力を持っていた。


「なぁ霧野…!奏に変なムシが付いたら…俺は……俺はどうすればいい…!?」
「何もしなくていい」


スパンと言い張る蘭丸だが別に適当に言った訳ではない。


「だいたい奏はそこまで頭悪くないだろ。善悪の判断ぐらいはでき「誰が奏の頭が悪いと言った俺は周りの男共を気にしてるんだ」

「……はいはい」
「しかもサッカー部に入部する気なんだぞ…?!松風とかに目を付けられないか…」


頭を抱えて髪を乱す拓人だったが悩んでいる事は実は凄くしょうもない事だった。
本人曰くしょうもなくないらしいが他人が聞けば満場一致で誰もがしょうもないと言うだろう。
というかここまで心配されると奏も良い迷惑。
だが話題にされている奏自身は特に気にしていない。
と言うか世間から見て兄が異常だということを理解していないのだ。

幼き頃からこの兄妹と関わってきた霧野でさえ呆れる程のシスコンぶり。



「先に言っとくが霧野、いくらお前でも奏に手ぇ出したらフォルテシモを……」
「はいはい」


こんな風に何度釘をさされたことか。
数えようと思う思考すらも霧野は既に考えることを放棄し、適当に相槌を打っておく。

いつからシスコンだったのか、と問えば出会った頃からと迷うことなく答えられる自信がある。(by霧野)
奏にべったりとひっつき、また奏も兄を慕っている。
世間的にどうかと言われると微妙だがこれはこれで兄妹のバランスが取れているのだろう。


「やっぱり俺が奏を守らないと…!」


でもこのままではただ単に奏が一方的に与えるだけになってしまう(本人はそれで満足そうだが)
やれやれと思いながらもガタリと席を立った拓人と共に蘭丸が席を立つ。



「奏ぇぇぇぇぇぇ!!!」



この兄妹に付いてやれるのは俺ぐらいだな、と思いつつ霧野は既に走り去って見えなくなってしまった拓人の後を追う。
後ろ姿に彼の追いかける妹の姿を見て久しぶりに出会えるであろう彼女に少し期待を抱きながら。





物語が始まる前の物語

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