【本】臆病者の恋物語

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『…どういうつもりだ?』





-Ill-omen to flash across to a head-






差し延べられた手をじっと見つめ表情を変えず梨桜は聞き返した。
剣城京介も表情を崩さない。
ただ一点、梨桜の方を見つめ視線は外さぬまま。


「言った通りだ。こっち側に付け神北梨桜」
『断ると言ったら?』
「さぁな」


視線同士の裏の読み合い。
冷たい視線が絡み合いうものの梨桜が怯むことはない。
男とはいえ流石に年下の者に下に見られることは全くもって不愉快にすら感じる。


「神童拓人が嫌いなんだろう?」
『あぁ嫌いだな。似たような理由でお前も嫌いだが』


「力が欲しくはないのか?」
『…お前ら側に付くくらいなら私はこのまま神童拓人に喧嘩でも吹っ掛ける』
「いいのか?そのままロクに本気を出せずに終わらせてしまっても」
『……それが運命ならな』

「お前の口から運命ときたもんだ」
『何がおかしい』


剣城はついに手を降ろし、梨桜の発言に対し笑い出した。
その行為に少し眉間の皺を増やし聞き返す梨桜。

だがしかし、それだけ剣城的には笑う理由があったのだ。
クックックと浅い笑いが続く。
笑う顔を覆い隠すように添えられた手の隙間から強う眼光が覗く。



「1度運命に見放された奴が言う台詞じゃねぇな」



笑い顔尾を引き、ニヤリと笑みを浮かべる。

"運命に見放された"

その台詞に梨桜はどこかがズキリと痛むのを感じた。
どこかと聞かれてピンポイントで答えることはできないが、あえて答えるなら痛んだのは心か。
それすら本人には認知が難しい不安定な気持ち。

―あぁこれは私じゃない。"アタシ"のせいだ。
頭によぎった声に即座待ったをかける。
あの日から…剣城の言葉を借りるなら"運命に裏切られた日"から頭に語りかけてくる声。


『(なんであの手を取らない?)』
『(黙れ。私にもう力は必要ない)』
『(かと言って易々と引き下がれる程アタシが大人しくないってわかってる筈だ)』
『(アタシが私な以上私が止めてみせる)』
『(さぁ…いつまで続くかな?)』


そこまでの思考会話を終えて一息。
梨桜は剣城に背を向け、クルリと上半身だけを剣城のほうへと向ける。



「いつかお前は自分を抑えきれなくなるだろう」
『剣城京介…お前はどこまで私のことを知っている?』

「どこまで知っているか…?わかってんだろ、俺はフィフスセクター。そしてシードだ。」

『…そうだな、聞くだけ無駄だったようだ』



今度こそ梨桜は剣城に背を向けて歩き出した。





「お前はこちら側に付く。必ずな」




そう不吉な言葉を残して。






頭によぎる不吉

(自分の思いは自分が一番わかっている)
(それなのにここまで胸がざわつくのはなぜだろうか)

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