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□ワールド
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君の全世界を狂わせたいと思う。

いわゆる常識とかモラルとか、そんな形式めいたもの破って捨てればいい。

君の当たり前なんか知るもんか。

そんな異質な思想を巡らせては、空が堕ちるような感覚に苛まれる。

同時に半透明の膜がかかって眩暈がする。

定期的にやってくるそれに抵抗するのはもう止めた。

今となってはこの悲劇の舞台を楽しんでるって気分だ。



「俺、観月のこと嫌いなのかな」


珍しく二人になった部室内で、思いついたように言ってみた。

こうして俺は、いつも傷付くのを恐れて天邪鬼になる。


「・・・そんなことを面と向かって言われたのは初めてです」


本気にしているのかどうなのか、よく分からない観月の横顔を見詰める。

そうしながら、不思議な味のする空気を吸い込む。


それは何でもない退屈で無意味な遊び。

勝ち負けなんてものは無い。

報酬は言葉では表せないような曖昧なもの。

長期戦は覚悟の上だ。



「・・・観月って何でいつもそんな風なの?」

「質問は分かり易くお願いします」

「・・・・・観月って何でいつも弱いのに強がるの?」


ぴいん、と青い糸が張り詰める。

それは蜘蛛の巣のように美しく幾重も。


観月の顔が不快そうに歪む。

空が堕ちるような感覚がする。


「・・・・・よく見てるんですね」


数分後にこちらを向き、返してきたのは予想外の言葉だった。

その表情にはやわらかな笑みを添えて。


「貴方は嫌いな人間を意識化に置き観察するのが趣味なのですか?」


観月の笑みが更に増す。

俺はいよいよ楽しくなってきて、思わず忍び笑う。


「うん。だから、今日部屋行ってもいい?」

「・・・意味が分かりませんね」


ふっと吐く息で青い糸が絡んで緩む。


君の全世界を狂わせたいと思う。

それこそもう、笑い方すら忘れるように。


他愛の無い遊びだ。

敗北することくらい分かっている。

その窮地に立ってもなお、俺は笑っている。

半透明の膜がかかって甘い眩暈がする。



「・・・いいですよ」


それでも何処かで何かが変わることを、俺はいつも祈っていた。





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過去作品を再録。

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