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□金魚の唄
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浮かんでるみたいだ。

この上ない冷たく心地良い浮遊感。

そうだこのまま眠ってしまおう。

きっといい夢が見れる。





「・・・・・サボリですか」


落ちかけた瞬間にそう言われた。

俺は仕方なく目を開けて、声の主を仰ぎ見た。


「休憩だよ」


宿題放棄を悟られないようそう言っておく。


「・・・・・何を、愛でているんですか」


床に横向きに寝ている俺の隣に座り、俺の「癒し」を覗き込んだ。


「この前の夜店で取ったやつ」


俺はそっとその金魚ばちに触れる。

その中に浮かぶ小さな赤い金魚は、少し焦ったように方向を変えた。


この金魚には一目惚れした。

妙な言い方だが、一目見て気に入った。

絶対手に入れてやろうと思った。


「深追いしていましたよね」

「そうそう」


尾の方が個性的だろ?

そう言うと観月は曖昧に頷く。


俺はふと金魚から目を離し、仰向けに寝転ぶ。

同時に観月と目が合う。


次の瞬間、ふわりと観月の髪の匂いがして、唇にやわらかな感触がした。


「・・・・・淳も図書室に来ませんか?皆いますよ」


すぐに何事も無かったように立ち上がり、そう言ってきた。


「・・・うん。もうちょっとしてから」


俺も元通り金魚に目を移し、そう返した。

不意討ちにはもう慣れた。



「・・・淳」

「ん?」

「取って食べちゃ駄目ですよ」

「・・・・・食べないよ」


観月はふふ、と笑う。

俺は何でそんな、と聞き返した。


「淳って、可愛い猫みたいですから」


それだけ言って、部屋を出て行った。






浮かんでるみたいだ。

不思議なくらい甘い浮遊感。






fin.

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